12、モニター越しに初対面
まどかさんが妊娠していると聞いた瞬間、裕也さんの子供だと思ってしまった。
出会った時に感じた不安を急に思い出したのだ。
場の空気を凍らせてしまったと落ち込んでいたら、話は全然違うことになっている。
横澤さんから育てれない人達の状況を聞いていたから、目の前の友人の選択がどんなに苦しいものかも想像できる。
だから私をママにしてとお願いした。
産めない私にその新しい命を託してほしいと心から思った。
私たちの手で育てたら、まどかさんもずっと見守れる。
法律的な話は沙耶さんが専門家としてアドバイスしてくれた。
夕飯の後、まどかさんのお腹に触らせてもらった。
「こんにちは、初めまして」
そう声を掛けると、お腹がグニュっと動いた。
「動いたね」
まどかさんが優しく言ってくれる。
愛しいね。
まどかさん、お母さんの顔してる。
「まどかさん、やっぱり自分で育てるって思ったら、ちゃんと言ってね」
「わかった」
「でも、私が育て始めたら絶対に返さない。私がママになるから……」
「大丈夫、そんな優柔不断な思いで諾したりしないから」
二人でそっと微笑んだ。
夕飯を御馳走になったので、そのまま家には帰らずホテルに泊まった。
翌日、裕也さんのお父さんとお母さんを訪ねた。
養子の話はもう何度も話していたけれど、やはり急なことに驚いていた。
一緒に暮らす案は、7それではけじめがつかないとまどかさんに却下された。
「沙耶たちの家の近くにマンション借りたから大丈夫。貯金も少しはあるから」と。
問題はまだまだあって、産む場所も決まっていなく、裕也さんの実家の病院にお願いすることになった。
今はどこも産科が足りないらしく妊娠中期までに産院の予約が必要なんだって。
でも、妊婦健診に付いて行くのは笑顔で許してくれた。
衝撃の告白を聞いてから2週間後、私はまどかさんの妊婦健診のために病院を訪れた。
お腹の大きな妊婦さんたちに交じって待合室にいるのはくすぐったくて仕方がなかった。
この病院には祥子先生(お義姉さん)の診察を受けるために今でも年に1度は通っている。
身内になっても変わらず通っていて、結構いろいろ相談している。
子供を欲しいと泣きながら訴えたこともある。
だから私たちの決心を後押ししてくれた。
産科の待合室は他の場所と違って見える。
前に自分の妊娠の可能性を調べた時と全然気持ちが違っていることが不思議。
自分は妊婦ではないけれど、赤ちゃんを宿している気分になっている。
でも心配なのは隣に座るまどかさんはやっぱり胃の調子が悪く吐き気が続いていること。
私もよく胃炎を起こして食べられなくなるから、あの気持ち悪さはよくわかる。
まどかさんは悪阻だけどね。早く納まるといいのにね。
座りつかれて来た頃にようやくまどかさんの名前が呼ばれる。
診察室に「特別ですよ」と一緒に入れてもらえた。
身内の病院の特例ってことらしい。
産科の先生にももうすでにまどかさんの決意と私たちのことが伝わっているらしく、そのことについて少し話した。
私たちがどのタイミングで子供を引き取るのか。
母乳をどうするのか、、、。
いろいろアドバイスも受ける。
その後、赤ちゃんのエコー検査に立ち会う。
モニターに映った赤ちゃんは
う・ご・い・て・る
可愛い。ちゃんと人の姿をしている。
雑音のようなすごい速さで心臓の音が聞こえる。
「元気ですよ、順調に育っていますね」
私にもモニターを見せてくれて説明をしてくれる。
子供の性別を知りたいですか?と聞かれたけれど二人で同時に首を振った。
それは生まれてからのお楽しみ。
その後、悪阻の話になった。
ちょっと難しい顔した先生。
「胃が痛いこともあるの?」
うなずくまどかさん。
「急激な環境の変化でストレスだと思うんですよね」
前回、倒れた時に貧血がひどく薬を出されているのにあまり改善されているように思えない。
「胃潰瘍からの出血があると厄介だから胃の検査を一度受けておいた方が良いかな。薬を飲んだ方が良いか胃腸科の先生に判断してもらおう。検査は妊婦でも受けれるものだか心配しないで」
まどかさんも自分の体調の悪さが気になるようで検査に同意して、そのまま胃腸科へ回される。
その前に血液検査もあり、まどかさんは疲れたようで時々大きなため息をついている。
「莉桜ちゃんに一緒に来てもらって良かった」
待合室の椅子に座ると目を閉じてしまう。
検査までまだ少し時間があるので、私は携帯の利用エリアから裕也さんに連絡をした。
「なんだか私まで胃が痛くなってきた」
「大丈夫か?姉貴に連絡しておこうか?」
妊婦健診の付き添いのつもりが急に胃の検査と言われ心細くなっているのがばれている。
「ううん、大丈夫。まどかさんが心配なので戻りますね。なので帰りの予定が遅くなるから」
「駅まで迎えに行くから連絡してくれ」
「ありがとう。そうします」
裕也さんと話して少し落ち着いた私はまどかさんのもとに戻った。
「ごめんね、なんだか長時間になっちゃったね」
「病院で待つのは慣れてますよ。一時期は1年の半分ぐらい病院で暮らしてましたから。第2の実家です」
「莉桜ちゃんにとっては本当に義実家じゃない。人生ってホントに何が起こるかわからないから面白い」
二人でわざと明るく話す。
そうしていないと本当に胃が痛い気がしてくる。
念のための検査。
絶対大丈夫。
まどかさんは今、ちょっと悪阻が強いだけ。
私は何度もそう思う。