表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/16

10、心の中から見つけた思い

養子を迎えようと二人で思い始めてから裕也さんと一緒にいろいろなところに出掛けて行き話を聞いた。


子どもを育てることができない人から子どもを育てたいと願う親への架け橋をしてくれるNPOの横澤さんと出会ったのもその一つ。


最初は裕也さんの取材だと思っていたようで話しがかみ合わず、私たちではふさわしくないのかなと思ってしまった。


「ごめんなさい、本当に私、そそっかしくて。よく娘に叱られるのよ。人の話は最後まで聞きなさいって」


勘違いに気が付くと今度は一生懸命謝ってくれる。


「何かおかしいなと思っていたので、こちらも早くお聞きすれば確認すれば良かったですね」

「そんなことありません。あの中野さんが私どもに興味を持っていただいたと聞いててっきり取材だと思い込んだのは私なんですから。あー恥ずかしい」


都心から少し離れた郊外の一軒家がNPOの活動拠点となっていて数人の妊婦の人が暮らしているそうだ。

様々な事情を抱えた妊婦が安心して出産できるように手助けもしているとのこと。


自覚が足りない、自己防衛しなければと彼女たちを責めるのは簡単だけど

自分の中に宿った命に慄き、悩んで苦しんでいることを思うと辛い。


子どもが欲しいと思う気持ちは本能なんだよね。


イラストの仕事も少なくて、時間はたくさんあるからスケッチブックを持って街を歩いてみる。

家からすぐの公園で子どもたちの様子にも目が止まる。


あの笑顔、あの仕草。可愛い。もう本当に愛おしい存在だと思う。

変な人に思われてるかな?


日焼けに弱いから目深に帽子を被ってスケッチしている私のところに小さな子どもが近づいて来た。


「はい」


何かを差し出されたので反射的に受け取ると葉っぱだった。


「ありがとう」

「何してるの?」

「絵を描いてるよ」

「見せて」

「いいよ」

そう言いながらスケッチブックを彼女が見やすいように広げてあげる。

作品に仕上げるためのスケッチではないから1枚の紙の中にいくつも絵を描いている。

子どもの手だったり、砂場で屈んでいる姿だったり。


「あなたも描いていい?」

「いいよ。私、ユイ」

「ユイちゃんね。私は莉桜だよ」

「莉桜ちゃん。ユイを可愛く描いてね」

「任せて」


似顔絵描くのは得意なのでサラサラと描く。

ユイちゃんのチャームポイントは少し大きめの耳かな。

そんなこと思いながら描いていると

「ユイの耳、ネコみたいって言われるから嫌い」


私の手元を見ながらユイちゃんがつぶやく。


「そう?可愛いお耳だと思うよ。ほら、可愛いでしょ?」


描きあがった似顔絵をスケッチブックから切り離してユイちゃんにあげる。


「お友達になった記念」


ユイちゃんは私の絵をじっと見て

「変な耳じゃない?」ってまだ聞いている。


誰から言われたのか分からないけれど、きっと彼女はとても傷ついたんだと思う。

とっても可愛い女の子なのに、投げかけられた「ネコみたいな耳」に悪意を感じたんだろう。


葉菜ちゃんといても良く感じる。

子どもはいろいろわかっているって。

私もそうだった。


大人達が私のために言葉を濁すことに。

私の気が付いていないフリの笑顔で安心していることに。


善意ばかりではない。

笑顔の裏の悪意も気が付いていた。


養子として子どもを迎えた時に、その子は何を感じるのだろう。

良い親になろうと私が無理をしたら、きっと子どもにわかってしまう。


大人たちが守ろうとしていてくれることも分かっているけれど、自分に関することを隠されたり誤魔化されたたりするのは嫌なのだ。


ユイちゃんがママも元に私があげた似顔絵を持って走って行く。

離れた場所から私たちの様子を見守ってくれていたお母さんが明るい笑顔で会釈してくれたから、私も笑ってお辞儀をした。


ママにまとわりついて楽しそうに何か話している。

子どもにとっての親って本当に偉大なんだろうな。


子どもからあんなに『ママ大好き』オーラを出されたら、やっぱりとっても幸せなんだと思う。


私のママも突然の事故で死んでしまったけれど、でも大好きなママで私のことをたくさん愛してくれたと思える。


自分で『産む』ことにこだわらないから、私も母になりたい。


養子ということで悩むかもしれない、傷つくかもしれない。

それでもいい。


穏やかな光の中で私は決意した。


私に託される子どもがいるのなら、男の子でも女の子でも構わない。

私が『ママ』となり育てる。


昼も近くなり私は公園を出た。

親子連れの人たちも帰り支度をしている。


ユイちゃんのママが自転車でやって来た。


「さっきはありがとう。ユイ、とても喜んでいるよ。月曜になったら幼稚園にも持って行きたい!なんて言うぐらい。ホントにありがとう」


「気に入ってもらえて良かった」


「じゃあまたね、さよなら」


自転車の後部座席からユイちゃんも手を振っている。

私も手を振った。


坂道なのにスイスイ上がって行く姿はかっこいい。

あんなパワー私にはないな。



家に戻るとキッチンから裕也さんが出てきた。


「お帰り」


裕也さんに笑顔で伝えた。


「ママになりたい」と。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ