「マイク入ってる?」
リビングでは寝ていた水木さんが起き上がり、カメラの位置やらなにやらを慎重に点検していた。
「友香、パソコンのセッティングよろしく」
麗さんが声をかけてきたので、
「はーい」
と返事をして、水木さんの隣にあったテーブルを陣取る。
パソコンを起動させネットにつなぎ、ホームページで『あと6分!8時から生放送♪』とメッセージをファンの皆様に送った。コードをいくつかつなぎ、カメラの映像がそのままパソコンにくるようにする。よし、これでネット配信の準備は完了だ。
今の時代、テレビ局もいつ襲撃にあうか分からないし、第一、人を一か所に集めて騒いでいれば“異形のモノ”たちに狙われてしまうこと間違いなしなので、コンサートとかはできない。
会社でさえも、出版社とか娯楽のためのものはほとんどが営業中止状態に入った。今でもきちんと機能しているのは、市役所とか学校とかの公共機関くらい。あと、工場とかネット通販用の倉庫、宅配便も機能しているものの一つだ。
このご時世、たいていのものはネットなんかでそろえないと、いつ何時自分がどうなるかわからない。だから、外を出歩く人も極端に減った。
ということで妥協策で美優さんが提案したのが、ネット上でのコンサートだ。ネットだったら視聴者は家に居るし、一か所に固まったりしないし、コメント欄とかを活用することでより視聴者と会話がしやすい、と。
そういうふうに言いくるめられた気がする。なんせ、一気にまくしたてる美優さんの剣幕にびびって、話は右耳から左耳へと通り過ぎていたので、詳細をよく覚えていないのだ。
ま、うまくやれてるからいいんだけどね。『ネットだろうがコンサートだろうが、成功すればこっちのもんよ』というのは、麗さんの台詞。かっこいいわぁ、と思うこと度々である。
「マイク入ってる?」
マイクに口を当て、そう言った美優さんに指先で丸印を出す。
「じゃ、本番行きまーす」
パソコンの管理を水木さんにバトンタッチし、カメラに映っているソファに座る。
「5、4、」
水木さんが静かな声でカウントダウンする。
「3、2、」
ひゅっと、皆が一斉に息をのんだ音がして、
「ヲタ軍によるヲタのためのヲタな生放送!はーじまーるよーん!!」
4人が一斉に、同じタイミングで、お決まりのセリフを叫ぶ。上手くいったらしく、カメラの向こう側の水木さんが手を頭の上で組み、丸印をだしてくれた。
ここからは、歌半分トーク半分。ヲタ軍、主に美優さんのテンションで台本も何もない生放送が始まる。