「あー、着る服がない」
「祭、入るよ」
ノックの代わりに声をかけ、勝手にドアを開ける。案の定、祭の部屋は散らかったままで、ベッドにも床にも服が散乱していた。
祭の着替える時の部屋の散らかしっぷりは、誰よりもひどい。そのため、誰か一人は必ず祭の着替えに付き添い、衣装選びと部屋の片づけを手伝うことが習慣づいているのだ。
「肩出さなきゃって思うんだけど、どんな服がいいかな?」
七分丈のジーンズを手にし、こちらを振り返る祭。
「祭だったらなんでも似合うよー」
とテキトーに答えを返しながら、そこらへんに散らばった服を拾い上げた。
「赤は派手だよねー」
「そう?」
「目がチカチカするでしょ」
そう言って、祭が手にした赤いタンクトップをベッドに投げる。どうやら、却下された服がベッド行きらしい。
「これは?」
夏らしいオレンジのキャミソールとショールのような布を差し出す。キャミを着た上から布を巻き付け、胸元でリボン結びにするタイプのようだ。
「踊りづらいからいやだ」
あたしの見立ては、即効で却下された。しょんぼりしつつも、その服をベッドに投げる。
「あー、着る服がない」
呟いた祭に、
「この散乱した服、全部祭のだからね。着る服はあるんだから、あとは祭がどれにするか決めるだけでしょ」
お姉さん、もしくはお母さんのようにいえば、
「年下のくせに」
…それ言わないでってば。
「あたしの立場なくなるー」
冗談めかして床に突っ伏せば、祭がくすりと笑った。
「冗談だし」
こっちだって分かっている。
祭はちょっといじけただけ。だからこそ、笑いにして吹き飛ばすんだ。
「よっしゃ、本気で選ぼう」
自分で掛け声をかけて服を取り出す。バッと適当につかんで広げた服は、淡いピンクのパーティドレスだった。
「…友香、本気?」
お前のセンスってなんなんだよ!と内心つっこんでいるであろう祭に向かって慌てて首を横に振る。
「違うんだ! ちょっと手に取ったのをミスっただけで、本当はこっちを」
と、ドレスの横にあった服をまたつかめば、
「黒いレオタードですよ、それは」
撃沈した。
余計なことは一切言わず、淡々と事実を述べた祭の声が胸に突き刺さる。自分に向けられた白い目が痛い。
床に倒れ込み、
「だってだってだってぇ~」
と失態に喘ぐあたしに呆れたのだろう。
「よし、これにするー」
と、いとも簡単に祭は衣装を決めた。
…あたしの出る幕なしじゃないか、このやろう。心の中でぶーたれながらも、祭をつれてリビングへ戻る。部屋は後で片付けてよう。じゃないと、生放送の時間に間に合わない。