「…平気そうね」
「あれ、水木さん」
息が乱れているところからして、走ってきたらしい。声をかけると、水木さんは勢いよく顔を上げた。
「襲撃にあったって! 聞いた…んだけど」
言葉が途切れたのは、襲撃にあったのにもかかわらず和やかに食事しているあたしたちの姿を認識したからだろう。
「…平気そうね」
さっきまで張りつめていた声はどこへやら。一気に脱力し、ソファに膝をつく水木さん。
「屋根裏部屋の窓が2枚われたけどね」
「外のビーチがぐちゃぐちゃだけどね」
「みんなの機嫌がわりと悪いけどね」
「食料、まだあるかしらねー」
美優さん、祭、あたし、麗さんと順番に襲撃の被害を述べる。その無事なようで意外と深刻な被害に、
「なんなのよ…」
ついに、水木さんはソファに崩れ落ちた。気持ちは分かる。
襲撃だなんだと焦って現場に駆け付ければ、わりと被害を受けているのにもかかわらず、当事者は和やかに食事中なのだ。その脱力感ときたら。似たようなことを、あたしも何度も経験させられている。
主に祭に。
「水木さん、お疲れ様です。野菜炒め、どうですか?」
明日の朝ご飯に、ととっておいた野菜炒めを小皿に盛り、水木さんにさし出す。
「頂くわ」
水木さんはのそのそと起き上がり、野菜炒めを食べ出した。お腹がすいているのだろうか? 意外とがっついて食べていたので、近くに放置してあったどら焼きもそっと横に置いた。
「気疲れした…」
後片付けも終え、リビングの大きなソファに寝そべりながら、これまたおっきなテレビを見る。水木さんは未だに疲れているようで、
「あーもー」
などと、言葉にならない声を発している。
「いやぁ、お疲れ様です」
不憫に思ったので、そっと水木さんの背後に忍び寄る。首から肩にかけて、力を入れて揉みほぐせば、
「あー、気持ちいいわー。ありがと、助かるー」
と水木さんが言ってくれた。
母親のマッサージを毎晩しているあたしとしては、水木さんの肩揉みくらいどうってことない。
「喜んでもらえて光栄ですー」
冗談めかして言いながら、いつもよりちょっと念入りに肩を揉んだ。