「パパお願い、で万事うまくいく」
「騒がしいですね、こっちは」
溜め息をつく。よくよく耳をすませば、
「堕ちろ堕ちろ堕ちろ堕ちろ」
とつぶやきながら弾を撃っている水木さんがいて、
「いやぁ、楽しいわー」
なんて、心の底から楽しんでいる美優さんがいて、
「おらおら、ガンガンぶっ放せ」
と定期的に叫んだりつぶやいたりしている麗さんがいて。騒がしいうえに、みんなの精神状態が不安だ。
そうだ、藤野さん。藤野さんはどうしているだろう。
目を向けると、藤野さんは別荘の脇に積んであった銃を一つ一つ点検し、銃弾を入れ替えていた。ご丁寧に、布で銃を磨いている。
あの人、銃撃戦に参加しているという意識はあるのだろうか? っていうか、異形のモノすら気いてないよね。藤野さん、隠れてないのに標的になってないもん。
「友香、よそ見してないで撃ちなさい」
どうしようと頭を抱えていると、美優さんの声が降ってきた。
「何も心配しなくていいの。銃弾一発いくらとか、そんなの考えなくていいから」
静かに諭す美優さんの言葉に、そういえば一発いくらだろうとどうでもいいことを考える。
「いくらなんですか?」
正直に聞けば、
「まぁ、型とかによって違うけど。一発500円とかじゃない?」
…うわぁ、聞かなきゃよかった。そんな大金、撃てないよ。こちら側から向こう側へと飛んでいく銃弾が、こころなしか500円硬貨に見えてくる。いったい、今まででいくら使ってしまったんだろう。
「破産、しません?」
おそるおそる美優さんに聞けば、
「パパお願い、で万事うまくいく」
と、それはもうお嬢様らしい返答をしてくださった。美優さんのお父様は、いい人だけど娘に甘すぎるのが欠点だ。
はぁ、とため息にもならないような息をつけば、ちらりと視界に人影が飛び出した。
「祭っ!!」
祭が壁の外側に、つまり異形のモノから丸見えで標的にされやすいビーチを走り抜けている。
「あぶない、祭!」
叫んだのは、あたしだったか。美優さんだったか。
それさえもわからなくなるくらい、パニックを起こした。
「祭が、祭が」
死んじゃうよ、あのままじゃ。いくら異形のモノが手加減してくれたって、7人の集中砲火を浴びるのだ。そんなの、生きていられる方がおかしい。
「祭!!」
叫ぶ声も届かなくて。祭は、恐ろしく綺麗にビーチを走る。メイド服の裾をまくったかと思えば、そこから次々に銃を取り出し、でたらめに撃っては投げ捨て、また銃を取り出す。
それはそれは、滑らかな動きで。その動作を追うように、異形のモノたちが一斉に祭に向かって弾を撃つ。
祭が死んじゃう…!!
情けないことに、身がすくんだあたしは何もできなくて。パンッと隣で響いた音に、大げさなほど肩を揺らした。