「うそだろ」
ガンガン飛んでくる銃弾。異形のモノは容赦しない。
こちらも対抗しようと、壁から身を少しだけ出す。ぐっと銃を構えた拍子に前傾姿勢になり、壁に体重がかかる。その途端、ぐらりと揺れた壁。
「っぶね」
あわてて壁をつかみ、壁を建てなおす。幸い、縦2m横4mくらいの薄い壁なので、片手でなんとか支えられた。
「うそだろ」
ぼそりと呟く。どうやら、藤野さんの言った『簡易工事』というのは謙遜ではなかったらしい。服といい、壁といい、こんな軽装備で大丈夫かヲタ軍。
ふうっと息をついて、周りを見渡す。隣では、
「おらおら、ガンガンぶっ放せ」
気のせいとは思えないほど楽しそうに銃をぶっ放している麗さんがそう言っている。なんかもう、どうかしている。
「麗さん…大丈夫ですか」
常識がある人だと信じていたのに、ここでおかしくなられたら困る。不安になって聞けば、
「おらおら、ガンガンぶっ放せ」
うわ言のように繰り返される言葉。どうしよう、麗さんが正気じゃない。
急に千尋が心配になり、壁際に張り付いている人の中から千尋を探す。目を凝らして表情をうかがうと、なんとも無表情に銃を構えている。むしろ、その手前でキャアキャア騒ぎながら撃っている祭の方が心配だ。
どうしよう。今日が終わったとき、正気の人がこの会社に何人いるだろうか。想像するだけで怖い。
周りの様子にげんなりしていると、突然
「うわっぷ」
凄まじい音とともに、体が前倒しになった。後ろを振り向けば、簡易の壁に穴が開いており、ぐらぐらと風に吹かれて揺れている。穴だけでなく、ひびも入ってしまったらしい。壁はいまにも倒れそうだ。
うそでしょ、壊れるの早くない?
どうやら、藤野さんの『簡易工事』と美優さんの『安物』という言葉は、本当の本当に真実だったようだ。どうしよう。この銃撃戦に勝てる気がしないどころか、生きていられる気すらしない。
穴の向こうにちらちらと見える異形のモノとは、再度銃を構える。その銃口は、まっすぐあたしに。
「友香、危ないわよー」
「なんで楽しそうなんですか、美優さんっ」
横に跳び、美優さんの隠れている壁に転がり込む。
「あっぶなかったわねー、あははー」
「…死ぬかと思った」
心臓を押さえて、息を整えていると
「てめ、ゴラァァ!! 俺のゆーかに!!」
「あたしの友香に、何するんじゃいっ!!」
遠くで、そんな声が聞こえた。千尋に祭。二人は隠れることもせず、もう無茶苦茶に弾を撃ちまくっている。
まったく、なんでこのチームにはまともな人がいないのだろう。異形のモノはごく静かに、ごく普通に銃撃戦をしているっていうのに。