「絶対嫌だ」
重たいダンボールは外で作業していた千尋を呼び出し、運んでもらった。
「美優さんたち、おもしろいことしてたよー」
とにやにやしながら言う千尋に、
「絶対嫌だ」
と意味不明な受け答えをしながら、倉庫で時間をつぶす。
リビングへは怖くて戻れなかった。多分、メイド服着ろって言われるし。メイド服とか似合わないから着たくないし。っていうか、この状況でメイド服とか、なんでだ。
ぐるぐるする思考を消すように、壁建てを堂々とサボっている千尋に甘える。
「何、銃撃戦怖い?」
と勘違いする千尋にあえて訂正は入れず、そのまま甘えた。汗ばんだ千尋の体温が心地いい。ぎゅっとシャツにしがみついたとたん、
『社員、リビングに集合』
と、スピーカーから美優さんの声が聞こえてきた。
「なんか放送されてるね」
「うん」
嫌な予感しかしない。これは絶対、メイド服が絡んでくる! どうしよう。
震えて立ち上がろうとしないあたしに千尋が手を差し伸べる。
「行きたくない…」
千尋の手を取らずに訴えるあたしに、
『10秒で来なさい。走って来なさい』
追い打ちをかけるかのような放送の声。心なしか、美優さんが怒っているような気がする。
うわーん、美優さん怖いよ。
「これ、行かないとやばいんじゃないの?」
そうつぶやく千尋にうなずき返すと、ぐっと手を引っ張られて立たされた。あぁ、行かなきゃ。放送ではすでに
『10、9、8』
とカウントダウンが始まっている。
「ちょっと遠いからね。間に合わないかも」
笑って言った千尋はあたしを担いで走りだした。
「ゼロ。はい、タイムアーップ」
どうやら千尋はギリギリアウトらしい。
「武ちゃんってば、彼女を俵担ぎしちゃうの?それってアリなの?」
突っ込む祭に返す言葉はなく。
「ナシ、かな」
苦笑いでそう返したあたしは、
「じゃあ、降りようよ」
と、祭に引っ張られて千尋から降ろされた。
ドアのところに放置したままだったキャスター付きの棚は、いつの間にかリビングの端に置かれていた。誰かが溝から引っ張り出してくれたらしい。誰かさん、ありがとう。
「さて、ここで提案」
美優さんの言う言葉に、ビリッと緊張が走った。