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「ねぇ、どうしたらいいの?」

「あ、チャイム」


 リンと澄んだ鈴のような音が12回鳴る。もう、お昼時だ。


「ご飯、作ってきますね」


 パソコンの作業を中止し、席を立つ。立ったついでに周りを見回せば、祭と麗さんと千尋はポスターの袋詰めをしていた。


「ご飯、何がいい?」


 少し大きめの声を出した途端、


「水木っ!」


 美優さんの、鋭い声が響いた。一斉に、窓を向く。窓の外には、


「水木さん!?」


 異形のモノに抱えられた水木さんがいた。意識はないのだろう、手足がぐったりと垂れている。

 あたしは反射的に室内に常備されている銃を取出し、構えた。が、窓を開けなければ弾は撃てない。


 さて、どうしたものか。威嚇のつもりで、銃を撃つ姿勢を保つが、これからどうするのがベストなんだろう。


 おそらく、みんなが考えていることは同じ。不自然に静まり返った事務所。緊迫した空気。息も詰まるような空気の中、


「ねぇ、どうしたらいいの?」


 祭の小さな声が異様に響いた。 


 誰も何も答えない。あたしだって、答えられない。みんな、襲撃のために訓練しているとはいえ、水木さんが人質にされるなんて想定外だ。

 どうしたらいいのか。何がベストなのか。堂々巡りを繰り返そうとした思考で、麗さんの息を吐き出す音がした。


「友香、銃は千尋に任せて。祭は今開けてあるかもしれない窓をすべて閉めてくること。美優は銃を調達して、友香は」


 冷静な声だけど、焦っている。いつもとは明らかに早口な麗さんを遮り


「水木さんの部屋、見てきます」


 銃を千尋に投げ、事務所を飛び出した。


 水木さんの部屋は事務所の真上。上からなら、砂浜に立っている異形のモノを狙いやすいのではないか。

 回らない頭で、必死に考えた結果だ。

 廊下の角、消火器の隣に設置してある銃を手に取り、あたしは勢いよく水木さんの部屋へと入った。


「え?」


 開け放したカーテン。部屋の右隅においてあるベッド。そのベッドに、なぜか人型のふくらみ。

 予想外のことばかりで思考がうまく働いてくれない。それでも、ベッドにいるのは誰なのか。確かめなければ、という思いで恐る恐るベッドに近づき、布団をめくった。

 そこにいたのは、水木さん。青白い顔をしているけれども、それは紛れもなく、水木さんだ。


「水木さん!」


 喜びのあまり飛びついた。いつもなら、これで起きてくれるはず。


「水木さん、水木さん。起きてください、もう昼ですよ」


 声をかけて揺さぶるも、反応がない。


「うそ…」


 言葉に出さなければ、このまま自分までこの空気に閉じ込められてしまいそうだ。水木さんの香水が香るこの部屋の、重苦しく生命が感じられない空気に。


「水木さん?」


 必死で声をかけながら、頬に手を添える。まだ、あたたかい。口もとに手をやる。息はしている。

 じゃあ、


「水木さん」


 頬を叩いても、体を揺さぶっても、水木さんは起きない。顔は相変わらず、青白いまま。


「意識が、ないってこと?」


 誰が聞くでもない、誰が答えるでもない独り言は、


 ――ドンッ


 銃弾が放たれた音によってかき消された。


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