「むしろ、一人でやれ」
「さて、今日は何をしましょうか」
朝食を終えた美優さんが、あたしたちを見回しながら言う。ここ『音のファクトリー』は人数が極端に少ないため、事務的なことも専門的なことも、すべてあたしたちがやっている。
「まずは、窓の取り付けじゃない?」
そのために千尋を呼んだんだし、と付け加えると、
「それは武ちゃん一人で十分でしょ」
「むしろ、一人でやれ」
祭と美優さんが何気なくひどいことを言う。隣で千尋が小さく舌打ちをした。
「ミュージックビデオの処理がまだ終わってない。それに、ポスターの加工も」
麗さんが的確な意見を言う。
「じゃ、それに決まり。友香とあたしでビデオの処理しようか」
「はい、了解です」
基本、パソコン関係が得意なあたしは、動画の処理とか加工を任されることが多い。その分センスがないため、必ず誰かと共同する形にはなるけれど。
「ところで、うちのマネージャーはどこかしらね?」
ふと呟いた麗さんに、誰もがそういえばという顔をした。
「水木さんは、いつも朝遅いですよね?」
確認するように言えば、
「確かに」
という同意の声が上がった。
「下手に起こすと機嫌悪くなるし、そっとしとこうか」
美優さんの意見に、とりあえずみんな賛成した。
『事務所』の札がかかったドアを開け、自分のデスクにつく。この部屋は広くて、窓が多い。西側に設置された窓からは、夕日がきれいに差し込む。リビングの隣ということもあり、ちょっと休憩をするにはちょうどいい設計だ。
自分のパソコンの電源を入れると、起動するまでの時間に身の周りに目薬とかジュースとか飴玉などを用意した。立ち上がった画面にパスワードを入れようとして、
「あ、メガネ」
自分の目が極端に悪いことを思い出す。引き出しをあさってメガネケースを引っ張り出すと、その中に納まる茶縁のメガネを装着し、あたしはパソコンでの作業に移った。
複数の動画を総合して加工して、一つのミュージックビデオに仕上げていく。気の遠くなるような細かい作業。そのうえセンスもいる。
美優さんと話し合いながら、麗さんと祭が騒ぐ声を聞きながら、作業を進める。ぶっちゃけ、細かい作業は苦手だ。あと、神経を使う作業も。つまり、こういう仕事は本来のあたしに向いていない。
でも、仕事は仕事。
そう割り切って、集中力がきれそうになるたびに、ジュースを飲んだり飴玉をなめたりしながら凌いだ。
太るわよ、なんて隣からの声は聞こえないフリだ。