「美味しそうな匂い~」
「いただきます」
礼儀正しく手を合わせたのは、意外にも千尋で。
「いただきます」
つられるようにして、あたしも手を合わせた。
「あぁ、うめっ」
早速オムレツを口にした千尋が呟く。
「ありがと」
小さく笑えば、
「美味しいわ」
向かいに座っている麗さんもそんなことを言う。静かな雰囲気で真面目に言われると、ちょっと照れる。
「どうも」
と笑えば、
「美味しそうな匂い~」
「ご飯~」
ふやけた声と共に、美優さんと祭が起きてきた。
「今、二人の分作るね」
自分のご飯もそこそこに、またキッチンへ戻る。
先ほどより、準備は簡単。玉ねぎはさっきレンジでチンしたのを残してあったから、炒める必要はない。あたしがやることといえば、オーブンで食パンを焼いて、オムレツを作ることだけだ。
「はい、出来上がりー」
数分のうちに支度をすませてしまえば、
「はやーい」
と、なぜか拍手をされた。
改めて、5人で食卓を囲む。そういえば、突如現れた千尋に誰も驚いていないようだ。夜のうちに来るってわかっていたのか。なかなか鋭い。
なーんて思っていれば。
「そう言えば、武ちゃん来たね?」
祭が呟いた。
「おぉ」
食パンをかじりながら、千尋が受け答えをする。
「昨日も言ったけど、」
「ゆーかは俺のもんだよ?」
先回りされたのが悔しかったのだろう。祭は嫌そうに眉をしかめて、そっぽを向いた。
っていうか、いい加減本人そっちのけで『自分のもの』って主張するの止めて欲しい。嬉しくないといったら嘘になるけれど、なんとなくお尻がもぞもぞするような、不思議な気分になる。
「ごちそうさま」
そうこう騒いでいるうちに、麗さんが食べ終えた。
「洗うのは自分でするね?」
にこやかにほほ笑む麗さんに
「あ、ありがとうございます」
と笑い返した。
「…麗には気をつけろよ」
ぶすっとした表情で、隣の千尋がいう。なんで? というような顔をしたのだろう。
「麗は、欲しいものは何でも手に入れるからな。ゆーかはアイツの欲しい対象になっちゃいないだろうな?」
真剣な表情でまた一口パンをかじった千尋に、思わず吹き出した。
「そうなの?」
笑いながら言えば、
「麗は美優さんよりも貪欲だからな。欲しいものを手に入れるためには、手段を選ばないからな、本気で」
ものすごく真剣な目をして言うのがなんだかおもしろくて、また笑ってしまった。親戚どうしのくせに、なんでこんな“犬猿の仲”なんだ。
最後の一口を口に押し込み、パンッと手を合わせる。
「ごちそーさまでした」
もごもごしながら言い、立ち上がると、
「俺がやる」
と、千尋があたしの分の皿をとっていってしまった。
「ん、ありがとー」
呼びかければ、少しだけ笑ったのが背中で分かった。