「俺、オムライス食べたーい」
「今日の朝ご飯、何?」
あくびをかましつつ、千尋がリビングまで下りてきた。
ここで何がいい? なんて聞いてやらない。時間がないんだから、千尋のリクエストにこたえることはできない。それに、きっと聞いても『カレー』とか『ハンバーグ』とか、朝には似つかわしくないメニューを希望することは目に見えている。
「俺、オムライス食べたーい」
ほら。そんな重いの、朝ご飯じゃない。
「夜に、ね」
冷蔵庫をあさり、玉ねぎとたまごを取り出す。今日のメニューはトーストとオムレツにさせてもらおう。ご飯を炊いて味噌汁を作る時間などない。
玉ねぎの皮をむき、適当に切る。涙が出てきたが、それよりも早く、オムレツを作らなければ。切った玉ねぎをボウルに入れ、電子レンジにセット。本当は炒めた方がいいのだろうが、時間短縮のために今日だけは勘弁してもらおう。
「はえー。あいかわらずだねー」
リビングからあたしを見つめる千尋。ここのキッチンはリビングと直結していて、リビングでテレビ何かを見ながらキッチンをうかがえるという、夢のような設計になっている。
手伝ってなんて、死んでも言わない。バーベキューのお肉すらきちんと焼けない、バーベキュー用のキャベツすらまともに切れない人に、料理を手伝ってなんて言えるわけがない。
「今朝はパン食かー。あ、俺、食パン2枚ね」
と独り言と共に、ちゃっかりお願いまでする千尋。
「多いね、朝から」
朝から食パン2枚とか、入らないわ。性別の違いを感じつつ、オーブンに食パンを3枚セットする。
この別荘は、なんでも揃っているくせにトースターがない。トーストを作るには、オーブンで適当に焼くしかないのだ。
「あたしの分も1枚」
スイッチを入れようとしたところで、麗さんの声が聞こえた。
「了解でーす」
ギリギリ間に合いそうな時間で良かったと、そう思った。
食パンをもう一枚押し込んで、今度こそスイッチを押す。オーブンに薄く光が灯ったのを見て、ボウルにたまごを割る。レンジでチンした玉ねぎと調味料も入れ素早くかき混ぜると、フライパンの用意をした。
「手際がいいわね。ほんと、友香のお母様が羨ましい」
リビングで柔らかく微笑む麗さんは、朝だというのに薄く化粧をしていらした。綺麗だ。
麗さんに微笑みかけ、フライパンにバターを引く。フライパンをゆすってバターを溶かすと、頃合いを見計らってたまごを流しいれた。
じゅっと音がする。そうそう、これこれ。この音が心地いいのだ。上手くまるく形成したオムレツを、ひとまずまな板に。火傷覚悟で三等分し、皿に盛り付ける。
「麗さん、キャベツ要りました?」
三枚の皿を器用にもち、リビングへもっていけば、
「ううん、要らないよ。ありがとう」
と、これまた優しい笑顔を頂いた。麗さん、やっぱり今日も綺麗だ。
オーブンのチンッという小気味いい音が聞こえたので、キッチンに戻る。皿に食パンを分けると、
「これ、持っていくね?」
麗さんが手伝ってくれた。
「ありがとうございます」
あたしは、冷蔵庫からバターとジャムを取り出す。箸も三人分を掴み、リビングに持っていった。