「あんたたち、元気ねー」
「キャー」
「ちょっと!」
「まだまだ!!」
バシャバシャと水が飛び散る。うら若き女性4人が水をかけ合いながら、はしゃいでいる。
温泉なら眉をしかめそうな光景だが、個人の大浴場であればほほえましいような光景だろう。
だがしかし、それはただの水のかけ合いではない。少なくともあたし、守田友香にとってはセクハラをされるかどうかという死活問題なのだ。
せめて、彼氏のために貞操を守っておきたいとか思う。意外と乙女な部分もあるのだ、ちょっとそこ、笑わないっ!
「あんたたち、元気ねー」
水木さんが近寄ってきた。自然と、水木さんに抱きつかれる。守ってくれるのだろうか?そう思って体を委ねれば、胸こそ触らなかったけれどもお腹辺りを少し、いやかなりいやらしい手つきで触られた。 急なことに、ぞっと鳥肌がたつ。
「み、水木さん! なにやってんすか!!」
あわてて飛び出せば、麗さんにキャッチされた。
「気をつけなきゃダメよ? 友香。多分、あたしらの中で一番エロいのが水木だから」
そうだったのかと納得する半面、またセクハラされないかと内心びくびくだった。幸い、セクハラ遊びは終わったらしく、何もされなかったが。
「あ、そーだ」
うーんと浴槽で伸びながら美優さんが呟く。
「ね、友香。武下呼んで。明日でいいから」
武下とは、武下千尋のことで、この会社のアルバイト兼あたしの彼氏である。麗さんの従兄弟らしく、20歳の大学生だ。
「いいですけど、何で?」
「窓ガラス、修理しなきゃ。さすがに武下も女だけでやれとは言わないでしょ」
…あぁ、そういえば。今日の襲撃で屋根裏部屋の窓が割れてたんだっけ。別に屋根裏なんてあんまり使わないから忘れてたけど、修理しなきゃだな。
「…そういうことなら、美優さんから呼べばいいじゃないですか」
仕事なんだし、と付け加えると、
「バカね。あんたの彼氏でしょ?」
フンと見下したような笑いを浮かべながら言ったのは美優さん。
「武ちゃんだって、彼女からの電話の方が嬉しいんじゃない?」
千尋のことを武ちゃんと呼ぶのは祭。
「あたしたちが呼んだって、武下はお前らならできるとか言って来ないわよ」
真顔でそんなことを言うのは水木さんで、麗さんがそれに同調している。
「なんか、散々な言われようですね」
千尋は窓の取り付けを女の子に任せるような奴だと思われているのか…。がっかりしたような、やっぱりなというような、ちょっと複雑な気持ち。
「お風呂上がったら、電話してみますね」
そう言えば、
「イチャイチャ禁止ね」
「二人で楽しそうに話し込んでたら、横からくすぐってやるわよ」
「友香はあたしのものだからね!」
美優さん、麗さん、祭が次々に言う。
なんでイチャイチャしたらダメなんだとか、くすぐるってどんな脅し方だとか、あたしは祭のものかよ! とか。どれからつっこめばいいんだろう。
戸惑って何も言えずにいると、
「愛されてるわねー」
と、水木さんが楽しそうにくすくす笑っていた。