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「大浴場の方ね」

 さて、片付けも終わり、


「お風呂入りたい」


 独り言をよそおいつつ、美優さんをちらっと見る。


「行ってくれば?」


 と言ったのは麗さんで、美優さんからの許可はまだ出ていない。

 別に美優さんに気を使っているわけではないが、ここで勝手に入ってしまうと「気が変わったー」とか言って一緒に入ってこようとしたり、しなかったり。そのうえ、一緒に入るだけではなく、セクハラをかましてくるので注意が必要なのである。


「一緒入ろうよ」


 パタンとながめていた雑誌を閉じて立ち上がった美優さんは、祭の手を引いてリビングをでた。


「これって、4人で?」


 別に一緒に入らなくてもいいよという返事を期待して麗さんをうかがえば、


「5人じゃない?」


 水木さんも支度をはじめていた。


「大浴場の方ね」


 さらっと、そんなことを言う麗さんに軽くショックを受けつつ、これは確実にセクハラされる…! と、お風呂の異常なテンションを幾度となく経験しているあたしは、溜め息すら出なかった。



「友香、早く」


 早くもすっぽんぽんになった祭があたしを呼ぶ。


「ちょっと待って」


 Tシャツを勢いよく脱ぐ。隣の麗さんはメイクを落としており、水木さんは先に風呂場へ入ってしまった。


「はい、準備完了」


 バスタオルを体に巻きつけもせず、大浴場に入る。この別荘は一人用の小さいお風呂場が3個、シャワールームも5~6個はあるくせに、そのうえ大浴場も持っている。

 なんて贅沢だ、とは思うけど、それが美優さんの家庭だと言われればそれまで。超お金持ちはいろいろ贅沢なうえに無駄なものだ。


「体洗って早く来なさいよー」


 悠々と一人浴槽につかっている美優さんの背中を見てみれば、この人ならこれでも小さいほうかな?とか思ってしまう。

 美優さんのセレブオーラはハンパない。そりゃあもう、バイトの面接で来た人がびびって、自らバイトを辞退したほど。


「友香、背中流して」


 隣で体を洗っていた祭があたしに背を向ける。ここのお風呂場にはタオルは置いていないので、手で洗うしかない。麗さんや美優さんはタオルで体を擦ると肌を傷めてしまうことがあるらしいために、そういうシステムになっている。

 祭のすべすべした肌を手で直に擦っていれば、むずがゆいような、ちょっと変な気持ちになる。襲いたいとかじゃなくて、なんていうか、「祭、やっぱり可愛いなー」くらいの軽い気持ちだけど。

 …そうか、これが美優さんたちの異常なテンションの訳か。なるほど納得。


「はい、終わり」


 祭の背から手を離すと、


「今度はあたしの番ね」


 次に祭が手を伸ばしてきた。

 …いや、別に良いんだけどね? 祭に体洗ってもらうの、好きだけどね?

 フフンフフンと鼻歌を歌いつつ背中を擦る祭を若干警戒しつつも、体を委ねる。これで、セクハラモードにならなきゃいいけど。


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