第二話「最強の魔導士様登場!」
そこにいた全員がぎくりとして動きを止めた。
「な、なんだてめえは!」
ドランという奴隷商人が声をあげた。
「通りすがりの気まぐれ男さ、そして・・・」
一拍“溜め”を作ってから思い切り上から目線で告げる。
「最強の魔導士、クロン・アークレイ様だ!」
ドランは口を開けてポカンとした顔をしている。
どうやら俺の名前を知らないようだ。
これだから田舎者は困る。
俺は構わず奴隷の少女、サイリの方へ向かう。
すると、行く手を阻むように五、六人の男達が俺の前に立ちふさがった。
どいつも狂暴そうだが知性の足りないろくでなし顔だ。
先ほどサイリの背中に強い酒をかけた奴も中にいる。
「どけよ。 今消えれば許してやる」
冷たい声でそう告げると、これを合図にしたように全員で襲い掛かってきた。
どうせ最初から許してやる気など無い。
俺は軽く指を鳴らした。
次の瞬間、空気が歪んだ。
見えない何かに叩きつけられたように男達の体が通りの向こうまで吹き飛ぶ。
周囲の連中も、まとめて地面に転がった。
静まり返る広場。
「な……なんだ今のは……」
誰かが震えた声で呟く。
「き、貴様!」
ドランが鬼のような形相で睨みながら立っている。
今の衝撃波は軽いものだったが、踏みとどまっていたという事は・・・
「へぇー、お前も一応魔導士なんだ」
俺の唇に我知らず薄笑いが浮かぶ。
やっと少し面白くなってきた。
「この若造! ただで済むと思うな!」
ドランはそう言うなり両手で印を結び、なにやら唱えだした。
こんな風に大袈裟に詠唱したりする奴に限って大したことが無いのはいつもの事だ。
「うおおおおお!」
ドランが吠えながら殴り掛かってきた。
なかなか迫力のあるパンチだが、眠くなるほど遅い。
俺が一歩横に避けるとドランの拳がすぐ横をかすめて大きく空振りする。
ドランは態勢を入れ替えて再度大ぶりなペンチを放つ。
俺はこいつがどんな魔導力を持っているか知りたかったので二発目も軽く避けて壁を背にする場所に立った。
ドランがにやりと笑う。
どうやら、俺が逃げ場を失ったと勘違いしたらしい。
「くらえ!」
勝利を確信した表情でドランが拳を突き出す。
拳が当たるギリギリのタイミングで顔を逸らすと、すぐ横の石壁が爆発したように飛び散った。
「おのれ! コソコソ逃げ回りやがって」
そう吠えながらドランは肘辺りまで石壁に埋まった右手を引きぬいた。
なるほど、相念系の魔導力か・・・
相念系は自身の体を強化するシンプルな魔導力だ。
しかしこの程度の力は大したものではない。
俺がこれまでに倒した相手の中には遥かに恐るべき力を持った奴がいた。
「ぶっ殺してやるっ!」
ドランの怒りは絶頂に達したようだ。
しかし、俺はもうこの程度の相手に興味が無くなっていた。
全身の力を込めて殴りかかってくるドランに掌を向けた。
「思念破!」
目の前で爆発が起きたように空気が歪み、ドランの体が宙を舞って向かいの建物に激突した。
砕けた石壁のくぼみからドランの体が地面に落ちる。
普通の人間なら即死だろうが、こいつは一応相念系の魔導士だ。
まあ、死にはしないだろう。
ドランが起き上がってこないのを確認した俺は、サイリのところに歩み寄った。
サイリはぐったりと倒れたままだ。
荒い息をしているからまだ生きているのがわかる。
俺はマントを脱いで、血まみれのサイリを包んで抱き上げた。
その時、遠巻きにしていた群衆の後ろでざわめきが起きた。
人波が左右に分かれて、大急ぎで逃げてゆく。
その中から甲冑に身を固めた兵士達が現れ、俺を取り囲むように左右に展開した。
これはこの城塞都市を守る警備兵だ。
広場での争いに気付いて駆けつけてきたのだろう。
うーん、めんどくさい。
こういう連中とは関わらないに限る。
兵の中から少し偉そうな奴が出てきて、なにか言い出したがそんなものに付き合うつもりは無い。
俺はサイリを抱えたまま、一気に警備兵たちの上を飛び越え、城門へ疾走する。
人間の足では到底追い付けないだろう。
城門の脇に控えていた警備兵が騒ぎに気付いて銃を構える。
「止まれ!」
こんなのは一切無視だ。
急接近してくる俺をめがけて警備兵の銃が火を噴く。
俺の周りの空気が一瞬歪んで、弾丸があらぬ方向へと飛んで行った。
俺の思念で作ったバリアはそんなのもので突破されるはずがない。
他の警備兵も続けて発砲するが、結果は同じだ。
こいつらの銃は一発撃つたびに弾を装填しなくてはならない。
もたもたしている警備兵の脇を風のようにすり抜けて城門へ向かう。
城門の守備兵は急いで門を閉じようとしているが、致命的に遅い。
あっさりと城門を抜け出した俺は振り向いて城門に掌をかざす。
「思念破!」
ドランの時よりもだいぶ強い魔導力で衝撃波を打ち出す。
たちまち城門の上層部が爆発したように砕け、そのまま崩壊して路を遮断した。
これで、当分追ってくることはないだろう。
俺は抱きかかえたサイリに魔導力を注入しながらその場を走り去った。
--以下、第三話に続く--




