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第三章 古い歌が聞こえる
その夜、首都のどこかで、誰かが歌い始めた。
古い言葉だった。
この国では百年前に禁書指定された英雄譚の中にだけ残る、誰も知らないはずの歌だった。
一人が歌い、二人が合わせた。
三人、十人、百人——
誰も知らないはずの歌が、なぜか口をついて出てきた。喉が覚えていた。骨が覚えていた。百年間、誰かの心の底の底で、ずっと、声にならないまま鳴り続けていた歌が——一人の「本物」が現れたことで、解き放たれた。
地響きのような大合唱が、首都の夜空に溢れた。
その音が、*結界*になった。
魔法的な意味ではない。
人々が「俺たちもここにいる」と立ち上がったことで生まれた、意思の結界だった。
サーシャは、その歌の中に立っていた。
感情を制御する訓練を十年間積んできた彼女が、知らない歌の歌詞をなぜか全部知っていて、泣きながら歌っていた。
「……非効率だ」
独り言のつもりだった。
「こんなの、全部、数値化できない。計算できない。戦略に組み込めない」
だが足は止まらなかった。
「——なのに、どうして」
なのに、どうして。
胸の奥の奥が——*こんなに熱い*んだろう。




