寝れない。
隣室から聞こえるベッドの軋む音に、小さく聞こえる甘い声の一端。慣れた事とはいえこんな真夜中までイチャコラしないで頂きたいと思う今日この頃。
ここがBL漫画の世界だと気が付いたのは数年前の幼い頃の事だ。小石に足を取られた兄、この世界の『攻め』な次男を『受け』な長男が受け止めたのを見た瞬間、自然と出てしまった「あっ、尊い…」という言葉が浮かび、それと同時に前世の記憶が蘇った。
アニメや漫画、小説と作品を読み漁っていた極普通の社会人女性として生きていた前世の死因は、普通に過労死だった。働きすぎだったのだろう。特に仕事が好きというわけではなかったが、会社がブラックだったから仕方がない。けど稀にある休憩時間を読書で潰していたのもあるから半分は自業自得か。
突然流れ込んできた自分の過去に呆れて苦笑しながらも目の前の尊いスチルを記憶に刻むのに必死だったのは今も覚えている。
色々な作品を読み漁っていた私は、ボーイズラブ作品にも手を出していたし、しっかりと腐っていた。その中でも好きだったBL作品であるこの世界、しかも主役二人の身内に生まれ変われた。なんて最高なんだ!
…最初はそう思っていた。いや、結構、最近まで思っていた。成長していくにつれて次男が兄への想いを自覚し、次男の積極的なアピールに意識し始める長男。この辺りまでは喜んで、楽しく見ることが出来ていた。
狂い始めたのは、二人の想いが成熟し、付き合い始めた時からだ。「良かったねぇ!付き合えて!!」と陰ながら応援していた私は心の中で感激していた。
しかし、その日の晩、隣の部屋から聞こえてきたのは、激しいベッドのスプリング音と—。うん、察して欲しい。1ヶ月ぐらいはこの音や声にすら私は喜んでいたし、もっとイチャコラして良いんだよ!とすら思っていた。
…1年程経った頃から、私は不眠に悩まされていた。半分はあの音のせいだ。あんな騒音の中で寝れるわけがないだろ!?少なくても私には無理だ。壁にぶつかってるのかたまにドンッと大きく音が鳴るし、とにかく寝れない。ツライ。
そうして悩み、取りあえずベッドを部屋の反対側に寄せることにした。その程度で聞こえなくなる音ではないけれど、多少は変わる。
ようやく寝れるかも、安心しかけたその時、壁の方からカンッと何かを打つような音と、ボソボソとした小さな声が聞こえた。こっちの壁は弟の部屋と繋がっている。夜中に何してる?と思いながら弟の部屋を覗き見たのが間違いだったのだ。
床の至るところに広げられた長男の盗撮らしき写真。壁際に立つ弟が持っているのは金槌と、次男の顔写真が貼られた藁人形。
うん、異常者!そう判断した私はその場にへたり込んだり、音を立てるなんてことはせずに、静かに少し開けていた扉を閉めて自室に戻った。
あの弟も長男のこと好きだったんだっけ。忘れてた。そんなふうに考えながらベッドを部屋の真ん中に移動させたのはつい先日のこと。
…こんなふうに毎晩騒ぐ兄弟達のせいで私は毎晩寝不足である。目の下の隈が消えることはなく、社畜時代のあの頃と同じくらいの濃さだ。
もう寝るのは諦め、夜はゲームやアニメ、漫画を読んで時間を潰すことにした。え?あいつらに静かにしてって言えばって?
…無理に決まってる。上の二人にそんなこといったら「お盛んなのも大概にしろよ」って言ってるようなものになるでしょ。気まずすぎて死ぬ。弟は、うん。怖い。それで私が呪われたらどうすんの??
そんなこんなで私の目の下の隈は転生しても消えることはないらしい。うん。辛いね!!




