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プロローグ

今から昔。といっても、それほど昔ではないのです。

筆者が学生の頃、よく伊豆半島の伊東駅にある祖母の家へ遊びに行き、自転車に乗って伊豆半島をあちこち巡ってました。

伊豆にくると不思議なもので、普段慌ただしく生活していることなど忘れるほど、ただゆっくりと時間が過ぎていく気がするのです。

ここには何もない。あるのは海と山と、温泉だけ。温泉につかり、ただポケーっと海を眺めているだけの時間は、漠然とした未来への不安など忘れさせ、私の心に安寧と平和をもたらしてくれました。


学生の頃の私はあてもなくふらふらとするだけのちょっと困った人でした。何不自由なく暮らしてきたが、何をすれば良いかわからず、とにかく毎日ただただ不安で一杯。唯一、身体を動かすのは好きで、そのときは不安を忘れさせてくれた。自転車に乗って、何も考えず逃げるようにひたすらに漕いでいました。

それで伊豆の地のぽかんとした雰囲気と、自転車でどこまでも行けるところと、疲れたら温泉で一休み出来る感じが私に合っていたってわけ。


社会人になって自立した今、あの頃の不安はなくなった。自然を見に行って自分にご褒美をあげようとは考えない。なんとも無駄な時間を過ごしていたものだなぁ…。

だけどそれでも、あの頃のあの時間をおっさんになった私は、懐かしく思い出すのです。

熱海駅からJR伊東線に乗り、伊東駅に降りる。

そこから商店街を抜け少しいくと、このへんの唯一と言ってもよい大通りにでる。そこから反対車線にはもう一面の海がみえる。

伊豆は、島の外周をぐるりと大通りが走っていて、内陸へ入ると、ほとんどが坂だ。車で移動するとなると、ほぼこの道を通ることになるだろう。また、伊豆へ入る時も、出る時も、必ずこの道を通ることになる。メインストリート。

そこを歩いていき、漁港が見えてくるあたりで、内陸側へ坂を登っていく。しばらく歩くと右手に市役所が見える。伊東市役所。

今日はここに転入届を出しに来た。

私は運送会社に勤めており、そこで配車業務を担当している。

この度会社の都合で転勤となり、ここ伊豆にある受注センターへ配属となった。主な仕事は、伊豆のエリアのガソリンスタンドへと油を届けるタンクローリーの配車だ。

そんなわけで、伊豆に移り住むことになり、引っ越し作業諸々を済ませた。


「ではこれで転出手続きは完了です。またマイナンバーカードの住所も変更する必要がありますが」

「ではお願いします」

「ではお時間少々いただきます。同じ番号でお呼びしますので、お掛けになってお待ちください」

東京でもどこでも役所の言うことって同じだな。それはそうか、と思いつつ、私はマイナンバーカードを出し、待合席でお気に入りの森見登美彦の本を読んで時間を過ごすことにした。


それにしても…と私は思う。

「ばあちゃんも亡くなったし、もう伊豆に来るのは墓参りくらいなものだと思っていたけど、まさか伊豆に住むことになるとはなぁ」



⭐︎次号、突如現れた宿敵「伊豆の踊り子」の攻撃を受けてしまい、私の四肢が爆散する。

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