惡い奴ほど良く眠る
〈キャッチーな詩を書く術や秋暮れる 涙次〉
【ⅰ】
永田です。先だつて楳ノ谷さんの番組『楳ノ谷汀アワー』に出演すると云ふ光榮に浴した。何でもカンテラ一味に近いところにゐる小説家、と云ふ事で、私は楳ノ谷さんの氣になる存在だつたらしい。私は自己紹介がてら、自分が一味をずつと追ひ小説にしてゐると云ふ事、本質は私小説作家である事、貧乏文士で埼玉の風呂なしアパートに猫(風)と暮らしてゐる事、精神障碍に長く苦しめられてゐる事、などを話した。私は楳ノ谷さんならこゝを突いて來るだらうな、と豫期してゐた事- * 火鳥の話題が出たのでちと苦しかつたが、まあ初めてのテレビ出演にしては、上々だらう、と云ふひと時を過ごした。
* 前シリーズ第162話參照。
【ⅱ】
そのギャラで、私はELEMOs エレポーターProと云ふ、「そゝる」特定小型原付(4輪)を購入した。バイクは心彈む乘り物だが、何せ荷物を運ぶのが大變だ。* そこで尾崎一蝶齋の眞似をして、特定小型原付の中でも、4輪で安定した運轉が出來、拔群に航續距離が長く、荷物の積載量も大きいこのブツに手を出した譯だ。まあこれは余談。
* 當該シリーズ第132話參照。
【ⅲ】
こんな話があつた。私は、愛猫・風の為に、* 安保卓馬くんが地球に持ち込んだ、フラーイの花を、卓馬くんから安価で分けて貰つてゐた。猫にとつてはマタゝビのやうな物だ。風はフラーイの花の香を嗅ぐと、ごろごろ咽喉を鳴らして「酔つ拂ふ」。最初、百合の花にやうに猫に有害な植物なのではないかと思ひ、テオに實際だうなの、と訊くと「僕も書き物の調子が惡い時、使用してゐるよ」との事で、風がむずかる時、当てがつてやる事に決めた。自分では使はない。幾ら所謂無頼派の作家逹を尊敬してゐると行つても、彼らのポン中癖までは眞似しない。
* 當該シリーズ152話參照。
※※※※
〈立冬前そろそろ人肌戀しいが未開封の儘手紙を仕舞ふ 平手みき〉
【ⅳ】
それを何処で訊いて來たのか、或る【魔】が私の襤褸アパの部屋を訪れ來た。「フラーイ、安く賣るよ」との事である。だうやら魔界でもいち早くフラーイの栽培をし始めたらしい。彼らはカネ目当てではなく、人間界にゐる者が、* シャアムの一族のやうに、現實逃避し、無氣力化する事を狙つてゐたのである。
* 當該シリーズ第141話參照。
【ⅴ】
私はその【魔】に、「あんたカンテラと私が懇意にしてゐる事、知らんのか?」と問ふた。「それは知つてゐるが、何分ルシフェル様の密命でな」との答へ。【魔】、もしくはルシフェルは、容易に私を「落とせる」ものだと思つてゐたやうだ。私がフラーイ中毒だと勘違ひしてゐたのだ。
【ⅵ】
「また來てくれ。今、手持ちのカネがない」と私はそのフラーイ賣りの【魔】に云つた。【魔】と再會の日取りを取り決めた私だつたが、元より買ふ積もりはなかつた。私はカンテラが、もぐら國王及び故買屋Xから、フラーイ賣買の件で、「甘い汁」を吸つてゐる事を知つてゐた。謂はゞ、カンテラのアルバイトである。
カンテラ「永田さん、よく報せてくれた」-私「魔界でフラーイ栽培は、ちと危険だらうと思つてね」。カンテラは、私と【魔】の約束した日に、私の部屋に陣取り、【魔】を待つてゐる-
【ⅶ】
で、【魔】、生命知らずと云ふか鈍感と云ふか、のこのこと現れた。カンテラ、「しええええええいつ!!」と行くかと思つたら、「永田さん、こいつ【魔】ぢやないぜ」-「え゙、何だつて!?」-だうやら【魔】を騙る、人間の惡党だつたみたいで、フラーイも實は持つてゐない。詐欺だつたのだ。私が、ブラックマーケットに於けるフラーイの価格を知らない、と思つて、轉賣で利を占めやうと思つてゐたらしい。
【ⅷ】
どつちにせよカンテラには「目の上のたんこぶ」である。改めて、「しええええええいつ!!」と袈裟掛け。人間の惡党は斃された。じろさんが付いて來てゐた。自分がカンテラのアルバイトに加担してゐると知つてゐたのかはいざ知らず、クルマに惡党の屍體を乘せた。そして彼らは去つて行つた。
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〈鯛焼きや尻尾から食ふ臍曲がり 涙次〉
私は氣になつたので、じろさんに(後で)尋ねた。「あゝあれね。實は俺も『甘い汁』吸つてる者の一人なんだよ」。-カンテラ一味、ツハモノ揃ひである・笑。それにしても、あの惡党、良く魔界や石田師界隈の事を知り、【魔】の振りをするのを考へ付いたものだ。惡い奴ほど良く眠る、と俗に云う。惡い奴が多過ぎる。これは、カンテラ一味も含めて(フラーイ常用のテオもその中に入る)の私の関興。ぢやまた。




