5話 プリクラ大作戦と、裏路地の追跡劇
朱色の夕日が教室に差し込むなか、神原清透は窓際でぼんやり外を眺めていた。
教室に残っているのは、いつもの4人――成瀬陸斗、美咲未來、北野真央、そして自分。
神原清透
クセのない黒髪をさらりと下ろした、バランスのいい整った顔立ち。
クラスの女子からひそかに人気があるが、本人はそのことにまったく無自覚。
内気で控えめ、やや根暗気質。人前では目立たないけれど、たまに見せる笑顔や困ったときの真剣な表情が「隠れイケメン」っぽさを漂わせる。
成瀬陸斗
明るい茶髪に軽くウェーブのかかったヘアスタイル、爽やかな笑顔がまぶしい快活イケメン。
成瀬グループの御曹司で、実はかなりのお金持ち。それでも偉ぶるところは一切なく、誰に対しても分け隔てなく接するのでクラスの男女問わず人気者。
親しみやすい性格と、さりげない気遣いができるムードメーカー。
美咲未來
色白で細身、モデルのようにスタイルがいい。長めの髪はつやつやで、“天使の輪”が目を引く。
まつ毛が長く、涼しげな切れ長の目元。髪は無意識に指でかき上げる仕草も自然と絵になる。
性格はちょっと内気だけど芯は強くて、誰にでも優しい。男子から誤解されることも多く、密かに人気が高い。
北野真央
小柄で、よく小学生に間違われる幼い顔立ちの美少女。漆黒の前髪ぱっつん、くりっとした目が特徴。
オカルト、UFO、UMAなど不思議なものに目がなく、頭の回転も抜群の“オタク天才”。
小柄なのに気は強く、思ったことはストレートに口にする。真央ワールドと呼ばれる独特の発言や行動で女子の中では少し浮いているが、個性派好きの男子からの支持も厚い。
なぜか気が合う4人組。中学時代からの親友同士である。
イスをキイと鳴らして陸斗が振り返る。「今日どうする?どっか寄ってく?」
美咲は「プリクラ撮りたい!」と手を挙げて笑顔を見せる。周りの男子がつい見とれる。
真央は教科書を片付けながら静かに口を挟む。
「月の霊力がピーク。幽霊が集まる。霊写りプリクラ、確かめたい」――独特の不思議トーン。周囲の女子は若干引き気味。
陸斗と美咲は思わず吹き出し、「また始まった!」と顔を見合わせる。
清透は(また真央ワールドか……でもプリクラなら美咲と近づけるかも)とドキドキしていた。
「美男美女カップル!」と廊下から冷やかしの声。
陸斗が「俺らは目立つぜ!」と大げさに言い、清透は(陸斗、目立たないでくれ……普通でいいんだけどな)と内心でため息。
美咲が「じゃ、決まり!」と声を弾ませ、4人は連れ立って教室を出る。
アーケード街は、放課後の雑踏と看板の光でぎらぎらしていた。
陸斗は「今日こそUFOキャッチャー全種制覇!」と鼻息荒く宣言。
美咲も「スイーツも食べたい!」と楽しそうにはしゃぐ。
その横で真央は立ち止まり、じっと周囲を見回して「この道、霊圧が漂ってる」と小さくつぶやく。
清透は「え、また……?」と戸惑いながら後ろを振り返る。
プリクラコーナーに着くと、真央は「霊界通信できるフレーム」と真顔でポップを調べていた。
美咲が「やめてよ!変なの写ったらどうすんの」とすかさずツッコミ。
清透は(俺の透明、ちゃんと大丈夫かな。緊張して消えたりしないよな……)と心の奥で祈っていた。
いざプリクラ撮影。陸斗は変顔、美咲はピース、真央はカメラを睨む謎ポーズ。
狭いブースで4人の距離が急接近し、妙な緊張とワクワクが混ざる。
落書きタイムでは「友情!」「ハートマーク」「心霊来い」など、好き放題書いて盛り上がる。
一瞬、清透の肩が消えかかったが、なんとかセーフ。
ゲーセンでは陸斗がUFOキャッチャーに本気で没頭。
陸斗「今日は絶対これを取るぞ!」と燃えている。
(透明化して取れば全部総取りできそう…)と邪念がよぎるが、清透は首を横に振る。
清透は、透明化を使ってこっそり実験を繰り返していたが、悪いことに使おうとすると何故か天罰が落ちる“罰ゲーム”スキルだった。廊下全裸発覚も、その天罰ルールの発動だった。
美咲と真央は、ぬいぐるみコーナーで目を輝かせていた。
真央は、ぬいぐるみの山をじっと見つめて「このぬいぐるみの山、絶対何かいる。あれは……チャッキー」と真顔で呟く。
美咲は苦笑しつつ「はいはい、今度こそ普通に遊ぼうよ」と、子猫のぬいぐるみを手渡す。
実は真央は猫が大好きで、猫バッジと水晶玉をいつもポケットに忍ばせている。
ゲームコーナーの奥には、ヤンキー風の他校生グループが目を光らせていた。「あの子、かわいくね?」とヒソヒソ声が漏れる。
陸斗が「次、マック行こうぜ!」とテンション高く提案し、美咲も「スイーツ食べたい!」と元気に応じて、次の目的地があっさり決まる。
真央は「オカルト大衆食堂に行きたい」とサラッと言い、みんなが思わず吹き出した。
賑やかな商店街の夕暮れ、真央がふいに立ち止まって、「この先、怪しい……」と低く警告する。
実際に霊感が強いのか、真央の“当たり”はよく出る。
商店街の曲がり角を抜けると、ヤンキー風の3人組が道をふさいでいた。
「お、そこのお姉ちゃん、今ヒマ?」
美咲に注がれる視線はギラギラしている。
陸斗がすっと前に出て、「ごめん、用事あるから」と間に立つ。
美咲は清透の背後にそっと隠れて、不安そうに清透の袖をぎゅっとつかむ。
真央はヤンキーたちをじっと見つめて――「ヤンキー、未除霊?」と空気を読まずに口にした。
陸斗と美咲は思わず吹き出してしまう。
清透は(やめてくれ真央、頼むから普通にして……俺の寿命が縮む!)と内心で絶叫していた。
ヤンキーの一人が「なんだコラ、変なこと言ってんじゃねーぞ!」と凄み、陸斗がすかさず「本当に急いでるんだ。行こう、美咲」と声をかける。
美咲はさらに清透の袖を握る力を強くし、真央は「空気が淀んでる。霊が憑りつく」と睨み返している。
とうとうヤンキーの一人が手を伸ばす。「逃げんなよ!」
清透は(怖すぎる……逃げたい……でもダメだ、美咲に嫌われる)と、表面は平静を装いながらも固まっている。
陸斗が「走れ!」と叫び、4人は人ごみをすり抜けて裏路地へ全力疾走。
「待てコラ!」とヤンキーたちも追いかけるが、ヤンキーたちは転倒。
実は、陸斗が咄嗟に足をかけていた。
細い裏路地に飛び込むと、4人は息を切らせて壁際で身を寄せ合う。
陸斗は周囲を警戒しつつ「こっちには来てないか?……巻けたかな」と確認。
美咲は「こわかった……」と泣きそうな顔で清透に寄り添う。
真央は壁に手を当てて静かに目を閉じ、「ここ、何かいる。何かが起きる」とさらに不思議なことを呟いた。
清透は(また真央ワールド……もうこれ、透明化しかない。頼むから僕のほうは見ないでくれ)と、真央の視線をそらす。
その時、ヤンキーたちが裏路地の入り口に現れ、「いたぞ、そっちに隠れてる!」と大声を上げる。
陸斗は「やばい、もう逃げ場ないかも……」と一瞬余裕の笑みを浮かべる。
みんながヤンキーたちを見ているその隙に、清透は陸斗のたくましい背中の影に身を滑り込ませる。
(今だ――透明化、発動!)
心臓がバクバクいって、冷や汗が背中を伝う。
全身が消えていく。自分の存在そのものが、気配ごとこの世界から溶けていくような感覚だった。