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23話 透明バズ ― 八雲笑太の挑戦

朝。八雲は古びたワンルームで目を覚ました。


「……まさか、こんなに早く拡散するとは思わなかった」


天井を見上げて、思わず呟く。

自分が動画の投稿者であることは、まだ誰にも明かしていない。


(世間がもう少し騒いでから、タイミングを見て出てやろう)

そんな計画だったのに――


心臓はバクバク。明らかに挙動がおかしいが、キーボードは素早くリズミカルに打っている。


カチカチとリズムよくキーを叩きながら、

投稿者の名前を「透明人間Z」から「八雲笑太」の本名に変えた。

そして、自分の携帯番号を書き、「取材希望の方はご連絡ください」と追記した。


「よし、これで僕に取材の申し込みが来るはずだ。さて、朝飯でも食おう」と思ったが、緊張で立てない。


「僕の足、透明人間、スキルが移転された……」と意味不明なことをつぶやく。


するとスマホが鳴った。

全く知らない人から「神の元においで下さい」との宗教勧誘だった。


その後も「透明人間は本当か」「正直に話せ」「お前は宇宙人の手先だ」と、わけのわからない電話の嵐となる。


SNSの通知音は鳴り止まず、ついには「ピコピコピコピコピコピコ……」と、もはや電子音の暴動状態。


「やっべ!どうしよう!八雲記者、ついに有名人か!?」

八雲はあたふたしながら、スマホを両手で抱えて部屋中をぐるぐる回った。


「ちょ、ちょっと待って!早すぎるだろう!」

八雲が叫ぶも、現実は待ってくれない。


そのうち、外から「すみません!“透明人間バズ”の方いらっしゃいますかー!」と叫ぶ声や、「住所はここで合ってるか?」とか、外が大騒ぎになっていた。


気がつくと、ボロアパートの前には、怪しげな人たちが群がり始めていた。


「いやいや、家賃滞納、大家に追い出される!!」

八雲は部屋の窓から外を覗き、額に汗をにじませる。


「逃げなきゃヤバい」

八雲は慌ててノートPCをかばんに詰め込み、そそくさと飛び出した。


八雲は自転車に飛び乗り、ペダルを全力でこぐ。


だが、チェーンが外れてしまった。

「なんだ、自転車まで透明化……」と言いながら、アパートの近くには人波が迫ってきている。


不器用な仕草でチェーンを直すと、八雲はなんとか群衆から逃げ出した。

坂道でバランスを崩し、見事に“信号待ちジャンプ”。そのまま華麗に(?)歩道の植え込みに突っ込んだ。


「痛っ……くっそ、落ち着け、とにかく週刊ポンポコに先に行かないと。逃げろ!」


八雲は義理堅い性格だった。フリーライターだが、一番お世話になっている週刊ポンポコに先に話を通そうとしていた。


編集部の前にたどり着くころには、髪も服も土まみれ。

「だ、誰か……助けてくれ……!」


自動ドアが開くと同時に、八雲は転がるように受付カウンターに倒れ込む。

「ポンポコ編集長! 亡命希望! 取材NG! 取材NG!!」と叫んだ。


受付嬢には「……お、お疲れ様です」と心底びっくりされたのは言うまでもない。


編集部フロアでは、スタッフがスマホ片手に

「ヤグモ! お前かよ!」「バズりの主犯やん!」と大騒ぎ。

八雲は受付の水で顔と服を拭き、「いや違う!俺は単なる投稿者!いや、ちょっとは主犯か!?」と意味不明な弁明。


すぐに編集長が現れた。

「八雲くん、社長が“今すぐ来い”って。すぐに行け!」


八雲は「はいっ!」と勢いよく立ち上がった拍子に、椅子ごと後ろへ転倒。

「いたたた……だ、大丈夫です、編集長!」


社長室の前で深呼吸し、「絶対落ち着け、俺」と小声で気合を入れる八雲。

だがノックした瞬間、緊張しすぎて「失礼します!」ではなく「参上つかまつった!」と謎の武士言葉を叫んで入室。


社長はデスクで腕組み。「で、君が例の“透明バズ動画”の正体か?」


八雲は慌てて頭を下げつつもしどろもどろに――

「い、いえ……わたくしは……ただの庶民です!いや、主犯格? いやいや、バズの風が勝手に……!」


社長「その4人、誰なんだ? 取材協力してくれれば、こっちも全面バックアップする」


八雲「そ、それは……ごめんなさい、絶対に言えません!」


何度か押し問答をしたが、社長が折れた。


社長は「お前、強情だな」と笑い、逆に興味津々で身を乗り出す。


八雲は汗をかきつつも、きっぱりと告げる。

「この動画はCGじゃありません。本当に体が消えてるんです。認証カメラで撮ってるので証拠はばっちりです!」


一気に熱弁モードへ突入した――

八雲は勢い余って机に肘をぶつけつつ、頭を深々と下げる。


「実は、私はずっと今の日本の社会が、どこかおかしい方向に向かっていると感じていました!」


社長が「ほう?」と目を細める。


「記者として書いてきた記事も、全部“社会の問題提起”ばかりでした。でも、なかなか採用されなくて……。だから、SNSやこういう新しい表現でしか、世の中に届かないものがあるって、気づいたんです!」


「この動画もそうです! あれは高校生の“叫び”なんです。閉塞感の中で“Break the Wall”って――本当に彼らの本気な気持ちです!」


身振り手振りで社長の前をうろうろ歩き回り、「リスクを冒しても、社会を変える挑戦をしたいんです!」と宣言。


「ぜひ、私の本を出してください! それと、できればテレビにも出させてください! このバズは間違いなく週刊ポンポコの利益にもなります!」


社長は呆気にとられながらも「……面白いヤツだな」と興味津々。


「それで、あの4人の正体は?」と聞かれるが――

八雲はすかさず両手を頭の上で✕にして「絶対言いません! ごめんなさい!」


社長は「フッ」と笑って「よし、もういい。君の情熱、しかと聞いた」と肩をすくめる。


八雲は「ありがとうございました!」と全力で礼――勢い余って再び椅子ごと後ろに倒れ、社長からあきれられていた。(こいつは記者としては優秀なのだが、この落ち着きの無さが、困ったやつだ)


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