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21話 余韻の朝――伝説のステージのその後

――朝。

清透はいつもより少しだけ軽い足取りで、校門をくぐる。

ゆっくり息を吸い、まだ人の少ない昇降口で下駄箱を開ける。


そこに、陸斗がひょいと横から現れる。

陸斗は、前日のステージを思い出してニヤリと笑う。


陸斗「おう、ゾンビさん。昨日の歌、なかなかイケてたぞ」

清透は靴を履き替えながら、少し照れくさそうに返す。


清透「ありがとう。でも、本当にできてたかな……?」


二人の会話には、あの非日常の余韻が、密やかに、しかし確かににじんでいる。

下駄箱のガラス越しに、朝の日差しが差し込んでいた。


朝の始業前、教室ではいつも通りの雑談や課題の話があちこちで飛び交っている。


陸斗は後ろの席から身を乗り出し、「おい清透、お前のゾンビ、よかったぞ」とニヤリ。


美咲は、自分のカバンをガサガサ探っていて――ふいに衣装用のティアラが出てきてしまう。「あ……なんで入ってるんだろ」と小さな声で慌てて、そっと隠す。


真央は窓辺でこっそり“ロボットターン”を練習。誰にも気づかれないように足元でぐるぐる回る。


机の間を行き交う空気は、どこか誇らしげで、清透は「昨日の自分たち」が日常のどこかに残っているのを感じる。


朝のホームルーム。担任教師が、いつもの調子で出席を取り、今日の連絡事項を読み上げている。


清透は自分の席に着き、周りを見回す。数人のクラスメイトが、スマホ画面を見せ合いながら「昨日の動画、すごかったよな」「あれ、本物か?」とひそひそ盛り上がっているのが耳に入る。


清透は、クラスのざわめきに神経をとがらせながら、「バレてない……本当に大丈夫?」と内心で何度も確認している。


陸斗も机にひじをつき、教卓の様子をうかがいながら、小声で「仮面もしてる。大丈夫」と安心半分、またドキドキ半分。


真央はノートの片隅に「クラス、未認識」とメモし、観察を続けている。


美咲はカバンにしまったティアラを何度もそっと触り、ホッとしたようにため息をつく。


四人の間だけ、昨日の余韻と“知られたくない”ひそかな緊張感が淡く流れていた。


一時間目の授業。教室は静かに先生の声とノートを取る音だけが響いている。


清透は、ノートの片隅に昨日のステージで描かれた“ゾンビの手”を無意識に落書きしてしまい、慌てて消しゴムをかける。


陸斗は机の下で、指先で昨日踊ったリズムを軽く刻んでしまう。その動きに自分で気づき、ちょっとだけ苦笑い。


美咲はシャープペンをくるりと回しながら、つま先をバレエのように伸ばしてみる。誰にも気付かれないように。


真央は理科の教科書の余白に「次は何を消せるか実験」と走り書きし、隣の机でひそかにロボットターンの手つきを試している。


4人とも、日常の中でふとした瞬間に“昨日の非日常”を思い出し、その余韻に小さく心が揺れる。


昼休み、中庭のベンチで4人が集まり、いつものようにお弁当を広げている。


陸斗がいつもの調子で小声で言う。「なあ、今、動画の話題、結構広がってるらしいぞ。お前らバレてないよな?」


清透はサンドイッチを持った手が止まり、「……まさか、あれが俺たちだなんて思わないよ」と、ひそひそ返す。


美咲もおにぎりを頬張りながら、周囲を気にして目を泳がせる。「ティアラ、カバンに入っていた。昨日からドキドキが止まらないの……」


真央は平然と弁当を食べながら、「AI曲のサビ、まだ脳内で回ってる。あれはバズ要素」と言い、話をそらそうとする。


陸斗が自信満々に「音楽プロデューサーに見てもらったんだが、絶賛してたぞ。こんな演出、こんな若者の率直な歌詞。歌声も良い。すごい、誰なんだこいつらは」と言ってたぞ。


時折、周囲のテーブルから「例の動画、マジでCG?」「あのダンス、どこのチーム?」と聞こえてくる。4人は顔を見合わせて、胸の奥にドキドキを隠しながら弁当を食べ続ける。


昼休み後、清透が廊下を歩いていると、友人が声をかけてくる。


「おい清透、あの動画見た? あれ、マジでやばくね? あのゾンビ、なんか動きが妙にリアルだったよな~」


清透は一瞬ドキッとするが、できるだけ平静を装って「え、ああ……なんかSNSでも話題になってるって」と、すっとぼけて返す。


もう一人の友人も「変な仮面の奴ら、どこの学校の奴らだろうな?」と首をひねっている。


「まさかうちの学校じゃないだろうな~」と冗談混じりに言われ、内心ヒヤリ。


清透は「だったら面白いけどな」と笑ってごまかしつつ、心臓の鼓動が早まるのを感じる。


廊下の隅で陸斗も友人に囲まれ、「お前運動神経いいから、動画の勇者の回転お前でもいけんじゃね?」と茶化されて、「いやいや、あれは俺でも無理だって!」と焦りながら受け流している。


美咲と真央も、それぞれ「似てる」と言われつつ、なんとかバレないよう話をそらし続ける。


昼休み後、清透と陸斗は廊下の窓辺に集まり、昨日のステージの話題で盛り上がっている。


陸斗「なあ清透、お前さ、ゾンビで片目だけ消したとき、絶対ウインクしてたよな?」


清透「違うよ!緊張で顔が引きつっただけだって!」


美咲も合流し、「ていうか私、あのドレスでターンしたらスカート踏んづけて転びそうだったんだから!」と自虐ネタをぶっこむ。


真央は「AI曲のサビ、頭から離れなくて昨夜眠れなかった。私、寝言で“Break the Wall”連呼してたらしい」とぼそり。


陸斗「いや真央、君のロボットターン、途中で絶対電池切れたろ!」


真央「私は省エネ設計なので問題ありません」


全員でツッコミと笑いが絶えない。


清透「ていうか、勇者(陸斗)の後方宙返り、絶対2回しか回ってなかった気がするんだけど?」


陸斗「いや、俺に失敗はない!とおもう……」


みんなで昨日の“珍場面”や失敗談をひたすらギャグ目線でいじり倒し、「でも、なんだかんだ楽しかったよな」と最後は笑い合う。


午後の授業。


美咲は体育の時間、バレエの名残りで思わずつま先立ちで整列してしまい、隣の友達に「お姫様かよ!」と突っ込まれる。

美咲「え、癖になってる……」と赤面。


陸斗は体育館でこっそり床に手をついて、昨日の「勇者スピン」を再現。「あ、これ家でもやったら親に止められたんだよな……」と笑いながら、こけて体操着の膝を汚す。


真央は理科室の席で魔法の杖(=定規)を振り回して「次は煙を出す魔法を研究しよう」と宣言。理科の先生に「道具で遊ばない」と真顔で注意されている。


清透は国語の授業で、ふとペンを握る自分の手を見つめる。「もし透明化できたらテストの答えも――いや、ダメダメ」と心で自分ツッコミ。


放課後、廊下で集まると、陸斗が「今日は勇者のマントを干してから帰る!」とドヤ顔。美咲と真央が「まだ言ってるし」と大笑い。


みんな、昨日のステージの影響で、普段の生活の中にもギャグ混じりの“成長の後味”がしっかり残っている。


4人は学校の門を出て、それぞれのドキドキを抱えて帰宅していた。


陸斗は「お前ら、今夜の動画チェック忘れるなよ!」と元気に手を振る。

清透は「……再生回数、すぐバレたらどうしよう」と顔を赤くしながらも、どこか満足げ。


美咲は家路につきながら、バッグの中でティアラをぎゅっと握る。「昨日、夢じゃなかったんだよね」と心の中でつぶやく。


真央は自転車を押しながら「家帰ったら“次の衣装案”AIに聞いてみよ」と新たな興味にワクワク。


全員の心に、「昨日のショウ」はまだ色濃く残っている。

だが、誰も正体がバレたとは思っていない。


夜、自分の部屋で。

清透はベッドに座り、スマホで“話題の動画”を確認する。コメント欄には「これCG?」「誰がやってるの?」「新しいバズり芸!」と盛り上がる声があふれている。


画面の自分には絶対に気づかれない――けれど、どこかで心がくすぐったい。


清透はそっと鏡の前に立ち、自分の手をひらひらと透明化させてみる。


「……俺も、昨日の自分より、少しは変われたかな」


微かに笑い、カーテンを開ける。

夜空には星がまたたき、遠くに明かりがきらめいている。


“伝説のステージ”の余韻は、日常の中にも確かに残っている――

そんな静かな夜が、また始まる。


そして、おだやかな日常は、だんだんと4人の若者の運命まで飲み込んでいく。

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