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19話 青春バズり大作戦! ~VIP釣り堀と透明人間のムーンウォーク~

 陸斗は事前に親に相談していた。

 父親は大賛成してくれた。今の日本がどこかおかしい方向に向かっていると感じていて、自分の事業もやりにくくなっていると話す。そして「やるなら徹底的にやれ。俺がバックアップしてやる。お前の成長の糧になる」と、まっすぐ励ましてくれたのだった。


 八雲と四人は黒塗りの高級EV車に乗り、あの成瀬家専用の釣り堀へ向かっていた。


 助手席には異様な緊張でカチコチになった八雲が正座姿で座っている。「いや~、EV初めて乗りました。静かですね。素晴らしい」と、あらゆる装置を勝手にいじろうとして、執事の運転手からおやめくださいと言われている。後部座席のみんなは、その漫才のようなやりとりを面白がって見ていた。


 清透は「陸斗は、やっぱり判断が早いな」と尊敬していた。

「僕はまだ親に相談もできてないや」と、ちょっとだけ肩をすくめる。

美咲も「私もずっと悩んでた。陸斗君は立派だな」と笑顔を浮かべる。

真央は、いつものごとく子猫のように水晶玉で遊んでいる。


 八雲は助手席の窓を開け、後ろのトラックを身を乗り出して「積み荷、気になるなあ……」と興奮気味。また執事から「危ないのでおやめ下さい」と注意されてしまった。


 釣り堀のほとりには冷暖房完備、全面ガラス張りの高級休憩小屋が備わっている。

美咲はソファに座るなり「ここ眺めも最高、気持ちいい……」と楽しそうだ。

清透は「これ、全面ガラス張り……成瀬財閥、桁違い」と、思わず口に出す。


 そのころ外では――


 真央は水辺の水中生物を観察している。真央ワールドに入っていた。

「ミズカマキリ発見。ゲンゴロウ、イモリもいる。ここは絶滅危惧種天国」と水色の紙に書いている。タイトルはマル秘世界の神秘であった。


 八雲が「よーし、荷物確認だ!」と意気込んだ瞬間、芝生で見事に足を取られ、尻もち寸前でリカバー。

スタッフの運ぶ実験機材の前に回り込み、頭を下げてお辞儀……した途端、邪魔だと言われる。


 「これはなに、これはどこの製品、性能は?」と聞いているが、運搬スタッフに答えられるわけもなく、かなり迷惑がられていた。


 青く晴れ渡る空と、心地よい風が池の水面をキラキラと輝かせている。


 スタッフが慌ただしく動くそばで、八雲は迷惑を顧みず自由きままに観察している。


 休憩小屋に、黒い燕尾服の執事が登場。無駄にキビキビした動きで成瀬のもとへやってくる。


「陸斗おぼっちゃま、準備が整いました」

「わかった。お前たちはもう帰れ。また連絡したら迎えに来てくれ。みんなに覗き見とかさせないように、しっかり注意してくれよ」

陸斗はどこか得意げに指示を出す。


「おぼっちゃま、お気をつけて」

去り際も“おぼっちゃま”連呼の執事に、美咲と真央は思わず顔を見合わせてクスッと笑う。


「あいつは何度言ってもおぼっちゃまをつけるからな。全く困ったやつだ」と、照れくさそうに文句を言っている。


 八雲は執事の後ろ姿を見送りつつ、片手を上げて「あ、ありがとうございました」とお辞儀。だが、そのまま前のめりで前転すると、両手を横に広げてなぜかどや顔でポーズを決めていた。


 みんなの準備が整い、今、ステージの横に四人が並んで立っていた。

清透は足が震えている。

美咲も胸に両手を当てて、神経を集中している。

真央は相変わらず何を考えているのかよくわからない。

陸斗はみんなの緊張をほぐすように、大声で強く言った。「さあ、俺たちの伝説の始まりだ。やるぞ!」


 池のほとりには、本格的な野外ステージが組まれていた。池が背景に映り込み、澄み渡る青い空と新緑の山々が、そのステージを若さと活力のある場に変えていた。


 真央が音楽AIで作ったポップな音楽が、スピーカーから軽快に流れる。


 軽快なポップ調の音楽に合わせて、背の高いスタイルの良い青年が一人、ムーンウォークで踊りながら登場する。マイケル・ジャクソンの格好で、顔はゾンビの仮面をつけていた。


 陸斗は強く思っていた。(世界を相手にバズらせてやる。そのためには、マイケル・ジャクソンだ)


 ステージのライトが虹色に輝き、左右のライトの光がその青年に当たると、スパンコールのジャケットがきらめき、不思議で幻想的な色合いに変わっていく。


 音楽が一段と盛り上がり、仲間たちも八雲も、それぞれの緊張とワクワクに包まれたまま――


 新たな伝説の始まりの幕が、いま上がろうとしていた。


――この計画が進む前に、ある事件が起こっていた。


 陸斗が「透明人間でお前を撮ったら、動画が砂嵐になるのが困ったもんだよな」と、スマホで清透を撮りながら言う。

真央は黒ノートを見ながら、ふと思いついた。「清透、透明化して意識すれば物が持てる。映れと願えば映る」

みんなは、ハッと顔を見合わせた。「清透、映れと念じろ!」すると、画像に清透が映ったのだ――それもくっきりと。頭だけ宙に浮いているイケメンの清透の顔が。

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