17 透明ミイラ、やりすぎ注意!? お化け屋敷伝説の日
学園祭本番の日、クラスの教室がまるごと“お化け屋敷”に変わった。入口前には噂を聞きつけた生徒たちが列をなし、廊下には期待と緊張の空気が広がっている。
清透は控室で自分の手を見つめていた。
(いける……今日は絶対、ドジしない……みんなに迷惑かけないように……!)
「おい清透!お前、手品の腕また上げたんじゃね?今日もバッチリ頼むぞ!」
クラスメイトたちからは応援と、「また失敗するかも?」という期待の声が飛ぶ。
「さすが清透くん。絶対、マジックアイドルになって」とクラスの女子は拍手。みんなが“透明化”を完全に「すごいマジック」だと信じてくれるのが嬉しい。
「超常現象の再現現場、私の記録ノートはついに新章突入……」
真央がうっとりとノートを撫でている。何の準備かわからないが、本人はいたって真剣だ。
いよいよ、最初のグループが呼ばれる。数人ずつ、案内役のクラスメイトに連れられて入っていく。
すでに長い行列ができており、誘導係の「まだ時間がかかるので、先に別のクラスへどうぞ~」という声も廊下に響いている。
中へ入ると、通路は薄暗く、壁に貼られた安っぽいお札や、怖いポスターが風で揺れている。
清透は息を潜め、完全透明化で通路の端に立つ。
来場者が一歩、また一歩と進むと、
「おはよう」「元気にしてる?」
――足音もなく、どこからともなくふわっと声だけが響く。
「今の誰!?」「え、声した!?」と来場者がきょろきょろ。
「……まさか本物?」
でも内容が日常的すぎて、誰かが「優しいおばけだな」と笑いだし、空気が和む。
清透は通路のあちこちから声を出し、最後に「ちゃんと前見て歩いてね」と少し大きめに注意。
直後、男子生徒が壁の飾りに頭をぶつけて「それ、一番怖い!」と盛り上がる。
次の部屋へ進むと、怪しげなロウソクのようなLEDの灯りが揺れている。
水晶玉の前、黒いローブを深く被った真央が薄笑いを浮かべて座っている。
グループが部屋に入ると、「こちらにお座りください」という不気味な声がスマホから流れる。
恐る恐る座ると、「私は運命の占い師。一人一つだけ占いましょう」と真央がスマホ操作でさらに不気味な声の演出。
「最近、妹が僕を避けるんだ」という男子には、「それはあなたが不潔だからです。口が臭いです」とズバリ回答。皆も苦笑い。
他の質問にもよく当たる(実は真央の鋭い直感力)。この演出で表情や声に自分の素が出やすくなり、さらに盛り上がる。
時間になると、案内係が次の部屋へ誘導。みんなもっと占いを聞きたそうだった。
続く部屋では、ド派手なガイコツ(陸斗)と白い服の幽霊(美咲)がスタンバイ。
「うおおおおお!」「おどろけー!」
陸斗が全力で叫ぶが、その声も姿もどう見ても陸斗本人。
「ナルセくんってバレバレだよ!」
「美咲ちゃん、幽霊でも可愛い!」
即バレされて、美咲は思わず顔を赤らめる。「ちょっと恥ずかしい……」
陸斗は「バレても勝ち!」とポーズを決めて写真タイムに。
陸斗と美咲がグループを挟んでインスタ映え写真を撮影。
クラスメイトがシャッター役を務め、
「美男美女の変な格好と一緒に撮れて最高!」
「これ、記念になる!」
とインスタ映えの声も飛んでいた。
にぎやかな笑いと歓声が響く通路の先。
「次がいよいよクライマックス!」とクラスの担当たちが盛り上げる。
通路の終点、いよいよクライマックスゾーン。
スポットライトのような明かりがぼんやり照らす中、トイレットペーパーでぐるぐる巻きのミイラが、手を前に出してよたよたと歩いている。
え、これが最後?と拍子抜けするが、ミイラの手が消える。
「うわ、手が消えた。コワ」
次には両足の足元が消えて近づいてくる。
「え~、すごい」「こわい~」「おもしろい」とみんなは喜んで出口に出た。
クラスの担当が「面白かったですか」と聞くと、「最高」「面白い」とみんなが絶賛していた。
その後は、教室の半分のスペースでお茶が飲めるようになっていて、クラスの皆も忙しく動いていた。
しかし、その声は、少しずつ恐怖の声に変わっていた。みんなが張り切り出したのだ。
入り口係の役目の生徒が「次のグループで最後です」と言う。
廊下には多くの生徒が並び、残念そうな顔をしていた。
最後のグループがびくびくしながら最終ステージに入ってくる。
しかし、清透は暗くてその生徒たちの様子も見えない。
(もう終わりか、楽しかったな、最後だ、頑張ろう)
そして、今度は足だけで歩いてしまった。
二本のミイラのような足が歩いている。
その瞬間、女子たちが「ぎゃーーーーっ!!」という本気の悲鳴。
一人、あまりの衝撃でしゃがみこむ生徒まで。
思わず動揺した清透。
(や、やばい……ちょっとやりすぎた!?)
汗がツーッと流れた次の瞬間――まるで天罰が下ったみたいに、透明化が勝手にパチンと解けてしまう。
顔に巻いていたトイレットペーパーもツルリと滑り落ち、「首なしミイラ」の正体がいきなり素顔丸出しで登場。
その悲鳴を聞いて、クラス全員が集まってきた。周りの観衆も、黒幕を取ったため、丸見えだ。
スタイルと男前の清透が、呆けた顔で口を開いて立ちすくみ、ミイラ姿で顔だけ丸見え状態。
悲鳴は、笑いに変わってしまった。
陸斗が「お前、やっぱり持ってるな」と腹を抱えて笑っている。
美咲も「清透くん、その恰好はやめた方がいい」と困ったように笑う。
真央だけが「天罰ルール確定」とメモを取りながら、妙に満足げ。
お化け屋敷が終わり、片付けの時間。
清透はトイレットペーパーまみれのまま、教室の隅でしょんぼり座っている。
「お前、今日のMVPだな!」と陸斗が無駄に親指を立て、
美咲は優しく「大丈夫、みんなびっくりしたけど、楽しい思い出になったよ」と肩をポンポン。
「今度は“透明化ミイラ現象”について論文書こうかな」と真央はマジ顔で言い出す。
清透は、「ちょっとやりすぎたな……」と苦笑いしながらも、仲間と一緒に大笑い。
(みんながいれば、どんな失敗も思い出になる――また明日からも、楽しくやっていけそうだ)
(また、美咲に情けない姿を見られた。僕も決心が決まった。僕がこの力を持った"理由"を知ろう)
清透のクラスには今日も笑いで溢れていた。




