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14話 透明ヒーロー、悪徳学園に潜入!

午後の日差しが、通称“悪徳高校”の校門のアーチをまだ白く照らしていた。


少し離れた公園で、清透は陸斗、美咲、真央と四人で円陣を組む。その手のひらが、ほんのり汗ばんでいるのが分かった。


陸斗が肩をバシッと叩く。

「ヒーロー、任せたぞ!」

美咲は**心配そうに見つめ、「本当に戻ってきてね」**と小さな声で念を押す。

真央は真顔でメモを差し出し、「映像証拠は一発勝負。やばくなったら即撤退」と念押し。


(怖いな、でも、僕にしかできないし、美咲の前でカッコ悪い所も見せれないし――今日は超絶ヒーロー全開だ!)


深呼吸をひとつ。清透は制服の上からポケットにスマホを忍ばせ、全身をじわりと透明に変えていく。

(絶対バレない。絶対――)


校門の外からして、すでに“昭和の不穏”が濃厚だった。

リーゼントに長ラン、やたら幅広いズボン。不良たちが校舎の階段や自転車置き場でたむろし、タバコの煙が風に流れる。


(うわ、本物だ……。こんな学校あるんだ、怖いけど、同じ高校生だ大丈夫。超絶ヒーロー前進)


校舎の窓の奥、職員室の明かりがぼんやり揺れている。

先生たちが困った顔でうろうろと行き来し、校長は何度も電話を手にしては項垂れている。

(警察呼ぶしかない…でも報復されたら…いや、でも…)


清透は裏門から足音を忍ばせ、廊下を抜ける。

体育館横の踊り場では、木刀を肩にかついだ生徒が、机をドンと叩き「誰も来るな!」と怒鳴る。

(俺もやりたくねーよ…誰だよこの役決めたやつ…)

でも表情は怖い。不良漫画そのまんまの睨み。


階段の下では、見張り役がペットボトルで水を飲みながら睨みを聞かせて座って大あくびをしていた。

(あのちび、学園で誰が来るんだよ、小心者だな。まあ、やるしかない)

教室をそっと覗けば、普通の生徒たちが肩をすくめて、ひたすら課題プリントに向かっている。

(助けて…こんなの、もう嫌だ…先生も親も頼れない…)


職員室の前に来ると、清透はスマホを構える。すべてを録画していた。


ガラス越し、校長が小声で言う。

「警察に通報しても…うちの子が加害者だとニュースになるだけだ…」


先生たちも精魂尽き果て、諦めに近い顔になっていた。

その空気まで動画に記録し、清透は再び廊下へ。


突き当たり、二階の一番奥――

黒い鉄扉。プレートには「資料室」。だが明らかに“アジト”の気配。

鍵はかかっている。

(ここだ…でも、どうする…?いける、壁抜け、絶対できる…!)


清透は全身透明化を壁ぬけモードに強化する。手を壁に当てて、ゆっくりと……

いける、抜けられそうだ。意識を集中して進む。

額、肩、胸、腰――ゆっくり壁を通り抜けると、そこには昭和丸出しの“ボス部屋”が広がっていた。


壁を抜けた先――

薄暗い資料室。

蛍光灯の明かりがジリジリと唸る、机の並ぶ一角に、不良グループの“幹部連中”が集まっている。


中心にいるのは、小柄だが威圧感だけは人一倍の男子生徒。

細身のスーツに赤いネクタイ、足元はわざとらしい革靴。だが顔つきは、まだ中学生みたいな幼さが残っている。


(これがボス…?小っちゃいくせに、なんであんなに偉そうなんだよ…)


その少年が椅子をギィ、と引き、机を指でコツコツ叩く。

「おい、もっと稼いで来い。中途半端な金じゃ足りねぇんだよ」(僕の親、小遣いくれない。超厳しい)

その声は妙に甲高いが、部屋の空気を完全に支配していた。


周囲の不良たちはみな一様に顔をこわばらせ、俯いている。

「や、やります…!次は絶対、目標達成します…」(困った、流れで幹部になった。しんどいだけだ)

「頼むから親だけは勘弁してください…」(このガキ、目つきは鋭いし、口がうまい)

言い訳と哀願が交錯するが、ボスは机をドン!と叩き、威嚇する。


「お前ら、サボってみろ。今度失敗したら、俺の親父が会社に言って、お前らの家族、全員職場から追い出させるからな」(親父に、そんな権力ないけど)

「――わかったな?」


(冗談じゃない…こいつ、親の力まで使って脅してるのか…)


清透は心臓がバクバクと高鳴るのを抑え、壁際でスマホの録画を続けていた。


(やばい、これ絶対“決定的証拠”になる!でも、俺…今もし捕まったら…どうしよう…)


そのとき、緊張のあまり、清透の完全透明化が途切れそうになり、ぼんやりと光った。


小心者の小柄なボスが、いち早く気付いた。

「おい、だれだ、そこにいるのは!」


(え、見えてる?やばい!バレる!? 完全透明、がんばれ…!お前しか頼れない!)


ボスはその影を指さすが、幹部たちが振り向いたときには完全透明が成功していた。

「壁しかないですよ。どうかしました?」と幹部の一人が不思議そうに返す。


小心者を知られたくないボスは、虚勢を張って

「気にするな、お前たちをからかっただけだ」と言い切る。


清透は震える指先で、必死にスマホを握りしめる。(変なとこ押してないよな、ちゃんと録画できてるよな…)

完全透明化すると自分でも見えない。スマホも録画中は手ごたえしかない。


(怖い、でも…今ここで逃げたら、全部が水の泡だ…!絶対、やり切る…!)


息を殺して“ボスの恫喝”“仲間の泣き言”“親を使った脅迫”――全てを録画に収める。


途中何度かスマホが半透明になったが、ボスは「光の関係か」と、怯えを押し殺して見ないふりをした。


(あれ、どうした、抜けられない。え、マジ終わり?僕、昇天……落ち着け、心を整えろ……大丈夫だ、俺は超絶ヒーロー!)


しかし、壁からゴツゴツと音だけが聞こえてしまった。


ボスがすぐ声をかける。

「おい、お前たち、廊下に誰かいるぞ。見てこい。」


超絶ヒーローモードに入った清透は、音もなく、悠然と歩いて戻っていく。


廊下では、不良たちが相変わらず大声で威嚇し合い、机を蹴ったり、窓から外を睨みつけていた。


(この学校、やっぱり異常だ…でも、全部証拠に残した。もう大丈夫…)


職員室の前を通ると、先生たちの苦しい会話が漏れ聞こえる。

「本当にどうしたら…」「警察に言うと、あとで何されるかわからないし…」

校長は「あの子の親は過保護すぎる…困った…」と悔しげに机を叩いた。


(先生たちだって、生徒を守りたいのに…みんな苦しんでる)


ようやく裏門から抜け出し、夕焼けの街へ戻る。

陸斗、美咲、真央が近くの公園で、痺れを切らして待っていた。


「おかえり、無事!?」「大丈夫だった!?」

清透は「……うん、全部撮れた」とスマホをそっと差し出す。


三人はすぐに動画を再生し、唖然とする。

「これ…本当に学校の中?」「ここまで酷かったんだ…」「先生たちも、みんな苦しそう…」


陸斗が「やっぱ清透はヒーローだ!」と強く抱きしめ、

美咲は涙ぐんだまま、清透の手をぎゅっと握りしめる。

真央は「これ、警察行き。即、しかるべき大人へ」と真剣な顔で頷いた。


(よかった、無事戻れた。もう無理、次は無理……でも、このスリル、ちょっとクセになる…)



日が落ち始めた明るい交番の前。

陸斗が警官を見つけ、そっとSDカードを差し出す。

「すみません、これ…証拠です。悪事の全部が入ってます」

「君は?」と聞かれるが、陸斗は振り返らず、「お願いします」とだけ言い、颯爽とその場を立ち去った。


「あとは大人に任せよう。俺たちは――ただの高校生だ」


四人のやり切った背中に、力強い春の風が吹き抜けていた。

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