11話 放課後透明スパイ大作戦!
春の放課後。
教室の窓から柔らかい西日が射し込み、部活に出かける生徒たちの声が廊下に響く。
神原清透は、窓辺で鞄を整理しながら、今日の出来事を思い返していた。
(透明化の制御、だいぶ慣れてきた。でも、やりすぎは危ないし……)
そこへ成瀬陸斗がやってきて、悪戯っぽい笑みで肩を叩く。
「なあ、清透。今日さ――お前の“透明”パワー、使ってみたくね?」
思わず警戒心MAXになる清透。
「……何に使う気?」
「決まってんだろ!モテ調査とイタズラだよ!なあ、美咲の本音とか、男子の噂とか……透明なら全部バレないって!」
真央も机をノートごと抱えてやってきて、「賛成。“未解決恋愛ミステリー”の真相も分かる」とオカルト混じりに乗っかってくる。
「絶対ダメ! そんなの、犯罪者ムーブでしかないから!」と清透は即座に拒否。
しかし、陸斗は「まあまあ、誰にも迷惑かけなきゃ問題なし!ちょっとくらい夢見てもバチ当たんねえよ」と、しつこく粘る。
そのやりとりを見ていた美咲が近づいてくる。
「なに騒いでるの?」
陸斗がニヤニヤしながら「いやー、清透が“透明王子”として学校を陰から支配する日も近いんじゃない?」と冗談交じりにごまかす。
美咲は「またバカなこと考えてるんでしょ。清透くん、悪いことに使っちゃだめだよ?」とやさしく微笑みつつ、心配そうな目で清透を見つめる。
清透は**(美咲にだけは絶対知られたくない……!)**と内心ビビりつつ、「大丈夫、そんなことしないから」とぎこちなく返事をする。
――だが、その後も陸斗と真央は“作戦会議”を続行。
「放課後の図書室なら、絶対誰にもバレないって!」
「恋愛相談の現場を透明で覗けば、“片想いの相関図”が完成するはず」
「ついでに先生の答案チェックも……」
どんどんスパイ活動がエスカレート。
清透は「いや、だからダメだって!」と全力で否定するものの、陸斗が「でも、もし透明だったら……清透、お前なら誰の本音が一番知りたい?」と真顔で聞いてくる。
一瞬、頭に浮かぶのはやっぱり美咲のこと。
(……気になるけど、それを知ったら“今の距離”に戻れなくなる気がする)
「……俺は、今のままでいい」
小さく呟く清透に、陸斗と真央が「おいおい、真面目かよ!」と騒ぎ、
美咲もクスッと微笑む。
そこへ、廊下から別のクラスの男子がやってきて、
「おい陸斗、お前ら放課後ヒマなら恋バナ聞かせろよ!」「清透、最近なんか変わったよな?」と冷やかしが飛ぶ。
さらに教室には女子グループも残っていて、
「清透くん、髪ふわふわで今日もイケてる~」「美咲ちゃんって最近ちょっと元気だよね」など、噂話やトークが絶えない。
清透は、みんなの視線や話題の中心に“自分がいる”ことを感じて、少しだけ胸が熱くなる。
そんななか、陸斗が最後の一押し。
「じゃあ、せめて一度だけ、俺と真央で“透明実験”付き合ってくれ!頼む!」
清透は渋々OKを出すことに。
「分かった、でもイタズラもスパイも絶対禁止!見るだけ、聞くだけな!」
「よっしゃあ!伝説の“透明スパイ”スタートだぜ!」
――教室の隅で“透明化実験”が始まる。
陸斗と真央がワクワクしながら見守る中、清透は深呼吸し、ゆっくりと身体を消していく。
陸斗「おお、マジで見えなくなった!」
真央「波動レベル下がってる……物質界の存在感ゼロ」
三人だけで静かに「透明スパイごっこ」が始まる。
廊下の音や、教室に出入りする他の生徒たちの会話を、透明な清透がこっそり近くで“聞く”役に。
陸斗「美咲の本音とか聞いてこいよ!」
清透「いや、絶対ダメだって……」と内心ビビりまくり。
でも、ちょっとだけ勇気を出して、美咲が残っている廊下へ移動する清透。
美咲は窓辺でひとり、スマホを見ながら小さくため息をついている。
清透(……今なら、美咲の気持ち、本当は知れるのかも?)
迷いながらも、美咲のそばに近づき、耳を澄ます――
そのとき美咲がふいに、小さな声で呟いた。
「……最近、清透くんのこと、よく考えちゃうな。なんでだろ」
その瞬間、清透の心臓がドクンと高鳴る。
(えっ……マジで……?)
しかし、緊張のあまり思わずくしゃみが出そうになる清透。(ヤバい!)と必死でこらえるも、
美咲が何かの気配を感じて振り向く。
美咲「……誰かいるの?」
ギリギリでその場を離れ、陸斗たちのもとへダッシュで戻る。
陸斗「どうだった?」「聞こえた?」「ニヤついてるだろ~!」
清透は「な、何もなかったって!」と苦笑いでごまかす。
(心臓バクバクすぎて寿命縮んだ……でも、美咲の“本音”……)
真央が「“未成仏恋愛霊”現象、解明一歩前進」とノートにメモし、
陸斗は「せっかくだし、男子トイレ潜入とかどう?」と悪ノリ。
清透は「絶対無理!!」と全力拒否。
そのとき、不安定になった透明化がぷつんと切れ、
清透の体が部分的に戻ってしまう。
「あっ、頭だけ浮いてる!」「ホラーすぎ!」と陸斗&真央は大爆笑。
ちょうどそのとき、教室に美咲が戻ってきて、
“浮かぶ頭”に驚き、「ちょっと、使いすぎだよ!」と清透に駆け寄り、思わず腕にしがみつく。
不意に距離が縮まり、清透は(ドキドキMAX……!)
陸斗「おい、青春してんじゃねーぞ!」と茶化し、
真央は「恋愛磁場、最大値」と冷静にノートを取る。
最後は、美咲と清透のちょっと照れくさい空気を残しつつ、
「透明スパイ大作戦」はドタバタと笑いに包まれて終幕。
――だけど清透の心には、
“誰かを好きになる気持ち”と“秘密を持つ苦しさ”が、今まで以上にリアルに芽生え始めていた――
春風が吹き抜ける夕暮れの通学路――
「青春と友情、そして恋の罠」は、まだまだ終わらない。




