9.スミス公爵家に侵入した不届き者
今(リンドウが嫁に行って腑抜けている)の公爵家なら、楽勝でオタカラを手に入れられそうだ。
などと思う。輩が結構いた。
……甘かった。外部からの侵入者など、リンドウの喪失感とやるせなさでなんとも言えない使用人たちもイライラを募らせ、ボッコボコの上で憲兵に引き渡される。
そんな中でもチャレンジャーは絶えなかった。
切ない話だが、公爵家では現金は置いていない。貴重な美術品はあれども持ち運びは…?である。公爵の支払いはだいたいが小切手。小切手を盗んでも、サインをしなければならないので、使えない。
ただのチャレンジ損である。なんとか忍び込んだと思ったら、3匹の犬から襲撃を受け、犬をかわしたとしても、気が立っている使用人達にボコボコにされる……。
そんな中、賢く公爵家に入り込んだ強者がいる。
彼女は侍女として公爵家に入り込んだ。そこで、公爵家の現状を耳にする。
なんでも公爵とその息子たちが愛してやまない一人娘が、ごく最近嫁に行った。と。それも王宮に。本当なら諸手を挙げて喜ぶはずなのに、邸全体が悲しみに暮れている。彼女は公爵内で結構情報収集をしていた。その行動が一人の男には何となく変な感じを感じ取った。
もちろん3男のコウル。仕事が影なだけあって、逆に彼女の行動を逐一公爵に報告していた。
「そうか。最近外部から侵入者が減ったと思ったが、お前は彼女が怪しいと思うんだな?」
「はい、父上。これは影としての勘になってしまうのですが、あれこれ家の内部事情を詮索しているようで、不審です。どのように致しますか?」
「とりあえず、今はこのまま放置だな。決定的な証拠がない以上動けない」
「そうなんですよね」
彼女はあっさりと尻尾を出した。公爵の机を漁りだした。
天井裏から3男のコウルが現れてあっさりとお縄についた。
曰く、「小切手でも欲しかった。サインはマネが出来るようになんか書類がないか探していた」そうだ。
このように公爵家はかなり厳重な警備をしている。とりわけリンドウを失った今、邸中が喪失感でピリピリとしているので、『触らぬ神に祟りなし』状態である。