表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/247

【挿話】母が帰ってきた日


 

《Side:サトル》


 話は、少し戻る。

 レイが呪禁じゅごん存思ぞんしで、守美すみを蘇生させた。


 力を使った瞬間、レイは気を失ってしまう。

 俺はレイをおんぶして、母、守美とともに、一条家を目指して歩いていた。


「…………」


 母は浮かない顔をしていた。


「どうなされましたか、母上?」

「……いえ。なんでもありません」


 普段の俺だったら、これ以上、母に何も聞かなかった。

 何でも無いといったら、何でも無いのだと。それ以上はなにもないと、踏み込んだことは聞かなかった。


 ……でも。

 レイを通して、俺は……母への理解を深めた。

 母は、俺が思うよりも、色々考えているおかたなのだ。


「何か、ご不安なことがあるのでしたら、言ってください。俺にできることなら、何でもしますよ」

「……大人になりましたね、悟」


 母上が小さく微笑む。


「これも、レイさんがもたらした変化でしょうね」

「はい。レイが俺を変えてくれました」


 ……かつて母の死が、俺を変えてくれたことがある。

 手の付けられない悪ガキだった俺は、母が死んで、母のような立派な人になろうとした。

 背伸び、してたんだ。でも……レイと出会って、俺は変わったんだ。

 昔の悪ガキでもなく、かといって、無理して母のマネをするようなことも、しなくなった。


 ただ自然体に、あるがままに、振る舞えるようになった。


「わたくしが心配なのは……朱乃たちのことです」

「黒服達のことですか?」


「ええ。死人が帰ってきたのです。みな……気味悪がってしまわないかと……」


 はぁ?

 何を言ってるんだろうか、母上は。


「ただでさえわたくしは、皆に嫌われているのに……」


 ……ええと。


「母上は、もしかして……自分が黒服達から嫌われてると、本気で思ってるんですか?」

「ええ。だって……わたくし、皆に厳しく接していたでしょう?」


 確かに、記憶の中の母上は、いつだって厳しい。

 俺に訓練を付けてるときも、一切手を抜かなかったし。

 

 黒服達への教育も、ビシバシやっていた。


「今更わたくしが帰ってきたところで、皆、嫌がるのではないかと……」

「母上って……前から思っていたんですが」


「なんですか?」

「天然ぼけなんですか?」

「なっ!? ぶ、無礼ですよ悟……! だ、だれが天然ぼけですかっ」


 ぷんすか怒る母上が、なんだかおかしくて、俺は笑ってしまう。


「何を笑ってるんですっ」

「すみません。大丈夫ですよ。母上の心配は、杞憂です」

「何を根拠に……?」

「帰ればわかりますよ」


 母上は、自分が黒服達から嫌われてると、勘違いしてるようだ。

 バカだなぁ……母上。


 ……いや、バカは俺か。

 母上が、どういう人となりをしてるのかなんて、幼い頃の俺は知ろうともしなかったしな。


 ややあって。

 一条家へと帰ってきた俺たち。

 母上は俺の陰に隠れるようにして立っている。


「母上。大丈夫ですって」

「し、しかし……」


 門の前で、大あくびしてる、小さな子がいた。


「ふぁあー……。はれ? 悟にいちゃん?」


 百目鬼どうめき家の末っ子、蒼次郎が門番をしていた。

 俺を、そして……後ろに立っている母上を見て、目を丸くする。


「あ、あわ、あわわわわ!」

「そ、蒼次郎……久しぶりですね……」


 ぴゅっ、と蒼次郎が屋敷の中へ戻ってしまった。

 母上はその場にしゃがみ込んで、露骨にへこんでいた。


「……悟の嘘つき」

「いや、いや。大丈夫ですって。嫌われてませんって」


「気休めはいりません……」


 すると……。

 ドドドドドッ! と屋敷の中から、黒服達が駆けつけてきたのだ。


「「「「守美さまぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」」」」


 百目鬼家をはじめとした、黒服達全員が、母上を取り囲む。


「守美さま!?」「なんでスミ様が!?」「そっくりさんですか!?」


 一斉に質問攻めを喰らう、母上。


「この御方は、本物の母上だ。詳細は省くが、レイが、秘術で復活させてくれたのだ」


 一瞬の静寂の後……。

 ワッ……! と黒服達が歓声を上げる。


「守美さま!」「おかえりなさぁい!」「うぐ……ぐす……うわぁあああああああん! スミ様ぁあああああああああああ!」


 皆泣きながら、母上に抱きついてる。

 本気で、みんなうれし涙を流していた。


「ど、どうして……?」


 母上がわかっていない様子なので、説明する。


「母上は、行き場のない寄生型能力者たちを、保護していたではありませんか」


 この極東において、寄生型の能力者たちは、異形として迫害されていた。

 でも……そんな彼らを、母は快く、うちに迎え入れてくれたのだ。


「皆わかってるんですよ。母が、厳しくも……優しい人ってことを」


 だから、母が死んだとき、みんな本気で悲しんでいた。

 ……だから、母が生き返った今、みんな……喜んでいるのだ。


「守美さまぁ……! おかえりなさい!」


 朱乃が子供のように泣きじゃくりながら、けれど、笑顔で……言う。


 母上は目に涙を浮かべながら、朱乃の頭を撫でていう。


「ただいま、皆さん」


 こうして、一条家に、母上が帰ってきたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
レイちゃんが悲しい思いや怪我などしませんように。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ