25 虚像の父 4
「つまり、母上は俺が不甲斐ないから、訓練を付けてくれていた……ってことでいいんだな?」
正座状態で、サトル様がそういう。
「そういうことです」
「そーゆーことだ」
守美さまがうなずき、幸子ちゃんもまたうなずいてる。
「二人は仲良しなのですか?」
と私が尋ねると、守美さまは「ええ」とうなずく。
「ずっとも。なう」
と、幸子ちゃんがうなずく。
「すみ。よーま。ごいけんばん。だった」
「ご意見番……」
「にちゃんねるてきな?」
「なんですかそれ……?」
「それはさておき」
さておきなんだ……。
「すみのむすこ。わかったか? おまえ、いまのままじゃ、だめだと」
「うぐ……ああ……」
サトル様が悔しそうにうなずく。
「今の俺では、まだ……親父には、勝てない」
……確かに。さっきまで戦っていた家嗣さまは、守美さまが作り出した幻影だ。
「そのとおりです、悟。さっきのは私の作った幻影。その力は、本物のあの人には、遠く及ばない」
……幻影の家嗣さまでさえも、あんなに強かったのだ。
本物は……どれだけ強いのか。
……それにしても。
守美さまって、家継さまのこと、どう思ってるんだろう。
サトル様や、他の一条の家の人たちは、明確に憎しみや怒りをぶつけていた。
……でも、守美さまはさっき、家嗣さまのことを、【あの人】といった。
あいつとか、あの野郎、とか、そういう感じではなかった。
……何か、憎しみ以外の感情を抱いているようにも見えた。
「母上。俺は……どうすればいい?」
すると守美さまは言う。
「甘えるな」
と。……とても厳しい御方だと思った。
さっき、感動の再会をしたときでさえ、抱きしめることはなく、足払いをしていたくらいだし。
でも、薄情だとは思わない。厳しさの中にも、優しさのようなものを感じる。
人に頼るな、考えろと。
……でも、私は……。
「サトル様。前に、幸子ちゃんは【過去と向き合え】と言っておりました」
「過去と……?」
「はい。きっと、それが必要なことなんだと思います。強くなるために」
「…………」
過去と向き合う。つまり、今までどんなことがあったのか、思い出す……ということ。
「どんなことがあったんですか、昔の貴方に」
「それは……」
サトル様が辛いお顔をしてる。過去を思い出したくない気持ちは、理解できる。
私だって、昔は思い出したくない。でも……。
「サトル様」
私は彼の手を掴む。
「どんな過去があっても、私は……あなたの側から離れませんよ」
「!」
……多分だけど、サトル様は、自分の過去を私に知られたくないと思ってるんだ。
それを知った私が、家が抱える宿命の重さに臆して、離れてしまうのではないかと。
「私は絶対にあなたの元を離れません」
何があろうと、私は、サトル様を愛してるから。
「レイ……」
サトル様が私を抱きしめる。ぎゅっ、と強く、抱きしめる。
「ありがとう」
「いえ」
サトル様の体が冷たかった。多分本当に、過去を知られるのが嫌だったんだろう。
大丈夫、という気持ちを込めて、彼を抱きしめる。
「悟にはもったいないくらい、良い子ですね」
「うむ。じゅんあい。いいやつ。うちのだんなも。あんなかんじ」
「おや、幸子さん既婚者だったんですか」
「ぜんせで、けっこんしていた」
「まあそうでしたの」
「そう。うち、こーみえてひとづま。ばりきゃり。かみえし」
「全く何言ってるかわからないですわ」
うふふ、と微笑む守美さまと幸子ちゃん。
「さて、では悟」
守美さんが近づいてくる。
「覚悟は決まりましたね」
「……はい。俺は、レイに、伝えます。俺の家で、何が起きたのか」
「その意気やよし。では……その手伝いをしましょうか」
「手伝い、ですか?」
ぱちんっ、と守美さまが指を鳴らす。
すると目の前に、分厚い本がドサッ、と出現した。
「これは……?」
「悟の記憶を具現化した本です。これに触れることで、あなたは悟の記憶の世界に行くことができます」
「は……? な、なんですかそれ……そんなことできるんですか?」
「ええ、それくらいはできるのですよ。一条家の結界師は」
す、すごい……。
一方で、サトル様は「俺にはそんなことできない」と落ち込んでいる。
その頭を、ぺんぺん、と幸子ちゃんが叩く。
「おまえ。よわいから。な?」
「うぐう……」
「大丈夫。だれだって。最初は雑魚」
「ザシキワラシ……」
幸子ちゃんが落ち込んでいるサトル様を慰めてる。
「いってこい」
「ああ」
サトル様が近づいてきて、私の手を握る。
「行こう。俺の……記憶を、巡る旅に」
「はいっ」
彼が過去と向き合うことで、強くなれるなら、是非も無い。
それに……私も知りたいのだ。この家に、何があったのか。
「幸子さん。悟だけでは心許ないので、ついてってあげてくれますか?」
「うむ。よかろー」
ぴょんっ、と幸子ちゃんが私の頭の上に乗っかる。
「れい。しくよろ」
「ありがとう」
私とサトル様がうなずきあい、そして……本に手をかざす。
最初のページがめくれると、パァアア! と強く光った。
「行くぞ」
「はいっ」「あんでら。かんけつ。おめでとー」
光が消えるとともに、私たちはその場から消えるのだった。
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