24 虚像の父 3
サトル様と家嗣さまが戦っている。
最初、家嗣さまの動きに、サトル様はついていけてなかった。
でも……。
「ぜやぁ……!」
サトル様の手刀が家嗣さまの首を狙う。
家嗣さまはそれを下がって避ける。
けど、下がった先に、サトル様が待ち受けていた。
がら空きの胴体に向かって、蹴りを放つ。
「グッ……!」
家嗣さまは何度もバウンドして、倒れ伏す。
「はあ……! はぁ……! はぁ……!」
「サトル様……」
サトル様がどんどん強くなってるのがわかる。
凄い……。
「やはり。いたみ。ある。おぼえ。にじゅうまる」
腕の中で幸子ちゃんがしたり顔でうなずく。
でも……私としてはあんまり彼に、痛いことをして貰いたくないな……。
「れい。よくみる。これが。いちじょうのいえ。しゅくめい」
「…………」
「すみのいえ。とくしゅ。とくに。すみのだい。やばす」
一条家は、私の知らない家庭事情を抱えてるようだ。
「れい。それでも?」
……それでも、一条家にいるのかと、幸子ちゃんは聞いてくる。
私の心は決まってる。
「うん。私……サトル様を、愛してますので」
だから、どんな事情があろうとも、私はこの家から出て行くつもりはないのだ。
「レイ……ありがとう」
サトル様が微笑んでいる。
スッ……とサトル様が構えを取る。そして……さっきよりも早く、彼が走る。
彼が消えたと思った瞬間、どんっ! という音と衝撃波が発生する。
音を置き去りにする、凄まじい早さだ。
「けっかい。うちがわはる。とくに。あし。きょうか」
体の内側に結界を張ることで、身体能力を強化できる(体へのダメージをムシして力が出せるかららしい)。
サトル様が超高速で家嗣さまに近づいて、そして思い切り、頬を殴りつける。
ドガッ……!
家嗣さまが吹っ飛んで、ぐしゃりと砂漠に墜ちる。
「きまったな」
ぴょんっ、と幸子ちゃんが私から飛び降りると、走り出す。
私を拘束していた力も解ける。はっ……!
「サトル様ぁ……!」
私は彼の元へと駆け寄る。
ふらり……と倒れるサトル様を抱きかかえる。
「はあ……はあ……やった……」
「ええ、お見事でしたよ」
「はは……そうか……かっこよかったか?」
「はいっ!」
サトル様が笑っている。……ボロボロになりながらも、戦っていた。その姿が、かっこよくないわけがない。
「すみのむすこ……いや、さとる」
幸子ちゃんがこっちにやってきた。
……家嗣さまに、抱っこされた状態で。
「なっ!? ざ、ザシキワラシ……おまえ……そいつから離れろ! そいつは……母の……一条 守美の敵だぞ!」
すると幸子ちゃんは、大きくため息をつく。
「しつぼー。きんじえない」
「なんだと……?」
「おまえいがい、きづいてる。このおとこ。しょうたい」
……正直、私も気づいてる。
サトル様がぎょっ、と目をむく。
「そうなのか、レイ……?」
「はい……」
だいぶ前からわかっていたこと。
でも、それを言うと、修業にならないと思って、言わなかったのだ。
「れいをせめるな。ねたばれをきんじた。うち」
「おまえか……」
「めがたのきょじん。あに。らいなーはよろい」
幸子ちゃんってたまに変なこと言う……。
「で、では目の前の家嗣はいったい……?」
はぁ……と幸子ちゃんが大きくため息をつく。
ちら、とこっちを見てきた。
「れい。おしえてやれ。ちょーおーがたが、べるとるとだと」
「えっと……その、家嗣さまは、守美さまです」
は……? とサトル様が目を丸くする。
「は、母上……?」
「はい。ここは……霊廟……サトル様の心の中です」
「は!? れ、霊廟……!?」
すると家継さま……いえ、守美さまがため息をつく。
「悟」
ぐにゃり……と家嗣さまの姿が、変わる。
黒い着物を着た、美しい……女性へと。
「あ、ああ……!」
サトル様の目に、涙がたまる。
そう……彼にとっては、久方ぶりの再会になる。
「母上ぇ……!」
サトル様は泣きながら、守美さまのもとへ向かう。
守美さまは微笑むと……。
足払いをした。
「ぶべっ!」
倒れ伏すサトル様の背中の上に、足をのっける。
「悟。なんですか、このていたらくは」
はぁ……と守美さまがため息をつく。
「私の擬態に気づけないどころか、力をセーブした私に対して一本しかとれないなんて」
どうやら思った通り、あの家嗣さまは、守美さまが擬態した姿だったようだ。
それにしても、力をセーブして、あんな化け物じみた動きができるなんて……凄い……。
「は、母上……酷いです……折角の再会なのに……」
「おまえが不甲斐ないからです。ねえ、幸子さん」
うんうん、と幸子ちゃんがうなずく。
「すみのむすこ。ふがいなさすぎ。れいのほーがすごい」
「ほんとです。おまえはレイさんと比べて弱すぎるのです。だから、修業を付けてやったのです」
そういうことだったんだ……。
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