16 厄神の依り代 4
着替え終わった私は、サトル様のいるという場所へと向かう。
彼は……訓練場にいた。
木の板が張られた床。高いところには、棚? が飾ってある。
そして、壁には【虎神一刀流 門下生】と書いてあり、木札が張ってある。
【二ノ宮 道真】
木札は、二ノ宮様の分一枚だけだった。
早太郎様に、虎神一刀流とは何かを聞くことが……できなかった。
「サトル様……!」
訓練場には、サトル様と、二ノ宮様のお二人しかいない。
サトル様は、その場に倒れているのだ……!
駆け出そうとする私に、
「くる……な……!」
とサトル様が声を張り上げる。思わず、私は足を止めそうになるも……。
それでも、私は彼の元に駆けつけていた。
呪禁を使って、彼の体力を回復させる。
「……ごめんなさい、サトル様。来るなという言いつけを守れず」
それは今の話でもあり、今までの話でもある。
彼は自分が湯川天神に来ていることを、私に告げなかった。
それすなわち、彼がここで特訓してる姿を、私に見られたくなかったからに他ならない。
どうしてかは、わからない。でも見られたくないというプライベートな部分に、私は……ずけずけと入ってしまった。
「……すまない、ああ、すまないレイ……声を荒らげてしまい」
サトル様は体を起こすと、私に頭を下げる。
……やっぱり、彼は私を抱きしめてはくれなかった。
……嫌だ、と思ってしまう。どうして抱いてくれないのだろう。
そんなの……嫌だ、と思う自分が、嫌だ。何をわがまま言ってるのだ……。
「……訓練終わる?」
「いや、道真。まだだ。まだ……俺はやれる」
立ち上がる、サトル様。その体は、ボロボロだ。
霊亀で体を自動防御されているはずなのに……。
「レイ、下がっててくれ」
「しかし……」
「頼むよ」
サトル様のお顔を、真剣そのものだった。彼からは、気迫が感じられる。強い意志。
……私は、本当言うと、彼に傷ついて欲しくない。離れたくない。
……ああ、駄目だ、駄目だ。わがまま言っちゃ、駄目。
サトル様に嫌われたら、私は……。
結局、怖じ気づいた私は、彼から離れる。
サトル様は「ごめんな」と謝ると、落ちてる木刀を手に取る。
「いくぞ! ぜやぁあああああああああああ!」
サトル様が木刀を構えて、二ノ宮様に飛びかかる。
一方で二ノ宮様は、その手に何も握っていない。
彼はその場から一歩も動かない。
木刀を持った男が襲いかかってきているというのに……。
風が、吹いた。
「ぐぁあああああああああああああああああ!」
サトル様は後ろにものすごいスピードで吹っ飛ばされ、壁に体を激突させる!
「さと……」
「ぐ、来るな……俺は……まだ……やれる!」
立ち上がって、またサトル様が、二ノ宮さまに斬りかかる。
「…………」
二ノ宮様はサトル様の攻撃を、避けない。反撃してるようにも思えない。
「一条様は、凄い御方でありますな」
早太郎様が私に話しかけてくる。
私は、ハラハラして、何度も彼の元へ駆け寄ろうとして……でも、二の足を踏んでしまってる。
「す、凄いとは……?」
「道真様の攻撃を食らっても、あの程度の傷で済んでいるのでございますから」
「それは……どういう?」
「道真様には、異能があります。その異能のせいで、あの御方は体に不運にもダメージが入っているのです」
「不運……」
「はい。道真様の体内異能……否、道真様に【とりついてる】神霊の力でございます」
とりついてる……。
確かに体内妖魔は、見ようによっては、人に寄生してるようだ。(現に寄生型っていうし)
「そうだ。サトル様は……絶対防御の霊亀の異能があります。その防御を越えてダメージを与えられてる……それが、異能なんですね?」
「いや、それは純粋に、道真さまの剣技によるダメージでございます」
「剣技って……剣なんて持ってないし、攻撃をしてるようにも思えないのですが」
「早すぎて、レイさまの目では追えていないのでございます」
すっ、と早太郎さんが指さす。
「道真さまは、手刀を繰り出してるのです。それも、恐ろしく早い手刀。実力者でないと、見逃してしまうものでございます」
……なるほど。棒立ちしてるようで、その実、ものすごい早さで攻撃してるのだ。
一体どれくらいの早さで……。
そのときだ。
……道真様の体の動きが、非常にゆっくりに見えた。
「!? なにこれ……」
サトル様が、ゆっくりと道真さまに斬りかかる。
二ノ宮様は右手で手刀をつくり、木刀をはじき返す。
そして、背後に吹っ飛ばされていく。
……時間の流れが戻る。
「確かに今……右手で手刀を放ってました……」
「!? み、見えていらしたのでありますか!?」
「え、ええ……なぜか」
「す、すごいですな……それがし、【霊犬・早太郎】の異能があれば、確かに、視力を強化し、道真さまの動きであろうと、目で追えるでしょうが……」
……あ。
そうか。私……多分、早太郎さんの異能を、鵺さんで模倣したのかも。
『正解よん』
と、鵺さん。
『さっきそこのわんちゃんが、あなたに服を着せるときに、饕餮が彼の異能を食ってたわ』
饕餮さん……。どうして?
『多分レイたんの力になるだろうって思ったからね。早太郎の異能は、便利だから。動体視力強化。さっきの鎌鼬戦のとき、レイたん目で相手の動き追えてなかったでしょ? だから、饕餮が自分で判断して、異能を食ったのよ』
な、なるほど……。
ありがとうございます、饕餮さん。
【☆★おしらせ★☆】
先日の短編
好評につき連載版はじめました!!
ページ下部にリンクがございます!!
【連載版】転生幼女は愛猫とのんびり旅をする~「幼女だから」と捨てられましたが、実は神に愛されし聖女でした。神の怒りを買ったようですが、知りません。飼い猫(最強神)とともに異世界を気ままに旅してますので
または、以下のULRをコピーしてお使いください。
https://ncode.syosetu.com/n2793jy/




