15 厄神の依り代 3
大妖魔、鎌鼬をお一人で倒して見せたのは……湯川天神の神主、二ノ宮 道真さまだった。
二ノ宮さまはどこかへ行ってしまった。
どこ行ったんだろう……くしゅんっ。
「レイ! アアこんなにずぶ濡れになって……可哀想に……」
いつもなら、俺が暖めてやろう、と言ってくるところだった。
でも……。
「早太郎! 早太郎いるか!」
サトル様は、私から離れてしまった。……どうして?
いつもなら、折れてしまうほど、強くぎゅっと抱きしめてくださるのに……。
どこか、私は彼から、拒まれたような気がした。
……どうしたんだろう……。
『なんでございましょうかっ、一条どの!』
……そんな私の元に、1匹の子犬が現れたのである。
「子犬……?」
『やや! あなた様は……まさか、一条家の花嫁さまで、ありますかっ?』
「!? しゃ、しゃべった……!」
犬が……!?
『あいや、驚かせて申し訳ないであります。変化!』
どろんっ、と子犬が煙を立てると……。
白髪の、美しい男性が現れたのである。
「初めまして、それがしは早太郎。二ノ宮家に使える、家臣であり、神主代行でございます!」
「あ、え……は、はい……レイと申します」
「おお! お噂はかねがね! 井氷鹿どのから伺っておりますぞ!」
「井氷鹿さまをご存知なのですか?」
「はい。それがしもまた、神霊が末席ですので」
! この子犬様もまた、井氷鹿さま同様に、神霊のおかたなのか……。
だから犬がしゃべっていたと。
「早太郎。悪いが、レイに着替えを用意してやってくれないか?」
「かしこまりました、であります! ささ、こちらへ」
早太郎さまが私の手を引く。
「…………」
「どうした、レイ?」
どうした、はこちらのセリフだった。
……私はサトル様に、いっぱい聞きたいことがあるのだ。ここで何をしてるのかとか。
いったいどうして、抱きしめてくださらないのですか、とか。
……でも、私は、怖くて踏み出せなかった。
おまえには、関係ないと、拒まれたらと。
……もちろん優しいサトル様がそんなふうに、理由もなく強く拒んでくるとは思えない。
なにか、事情があるんだ。
でも……その事情に、踏み込んで良いのか……わからない。
彼は私を愛してるという。私だって……そうだ。愛してる。
……でも、愛してるからといって、そこまでプライベートな部分に踏み込んで良いのかな。
母以外の人から、愛されたことのない私には……わからない。
愛し、愛される間柄の相手に、どこまで深く関わって良いのか……くしゅんっ。
「何をやってるのだ、レイ。早く着替えてきなさい」
「……はい」
サトル様がを気遣ってくださる。これだけで、いつもうれしい、幸せな気持ちになれるのに。
今日は雑念が入ってしまい、私の気持ちを乱してしまう。
私は早太郎さまのもとへ向かう。
大きなお風呂があった。
お風呂をいただいて、外に出ると……。
「レイどの! お着替えを用意しておりますぞ」
「きゃぁああああああああ!」
は、早太郎さまがそこにいたのだっ。
お、男の方に、は、肌を見られたっ。さ、サトル様にも見せたことないのにっ。
「レイどの、ご安心くだされ。この通りほら」
早太郎さんの胸の部分が、膨らんでいた。
腰がくびれており、顔つきもさっきより丸みを帯びている。
「女性……?」
「はい! それがしは両性なのでございます!」
「そ、そうなん……ですね」
神霊は人間と違うルールで生きてるらしい。
両性、つまり男性と女性、どちらの性も持つと言うこと。
今の早太郎様は、女性の姿になってる。
なら……いい、のかな?
「さ、お着替え完了でございまするぞ!」
「!? は、早い……」
いつの間にか、私は着替え終わっていた。
来るときに来ていた着物とは違う……。
白い上着に、緋色の袴? を着いてる。
「おお、巫女服がお似合いですな! ぜひともわが二ノ宮の家に嫁いで来ていただけないでしょうか?」
「それはできません」
きっぱりと、私は言う。私は、一条の家に嫁いできたのだから。
「あいや、それは残念。道真様はまだ未成年とはいえ、そろそろ成人。花嫁を取らねばならないのですが、あのようにぼんやりしておりまして。家臣としては、とても心配なのであります」
すごい早口で、早太郎様が言う。
やっぱり、二ノ宮さまは未成年のようだ。
「あれ? でも、極東五華族は、それぞれ許嫁がいて、陰陽の力を使ってるってうかがいましたけど……」
百春さまにも、しきさんがいたし(実質娘と言っていたけど)。
「道真さまが陰陽の力を使うとき、それがしは女性の姿になるのです。基本は男性姿でありますが」
……脳裏に、しきさんの「腐腐腐……♡」という笑顔がよぎった。
だ、男性同士で……いやいや。
「しかし道真はお強いので、陰陽の力なんてほとんど使いませんがね」
「神霊をその身に宿してるから……ですか?」
「そうであります! 【雷神】の異能者なのでございます!」
「らいじん……」
なんだか、強そうな名前だ。
でも……納得した。二の命となった鎌鼬を、一撃で倒したのは……雷神の異能があったから。
「しかし道真さまは、雷神の依り代であるが故に、色々と苦労されておるのでございます」
「…………異能の制御的な意味でしょうか?」
「おお! よくわかりましたね!」
「似たような事例を、いくつか見ておりますので……」
一条家の黒服さんたちや、その他、寄生型異能者たち。
あの人達は、異能が強すぎるせいで、制御できず、日常生活を送れないでいた。
二ノ宮さまもそうだったとしても、特に不思議に思わない。
……まあ、鵺さんから教えて貰ったことではあるけど。
「さ、お着替えなされたら、訓練場へ参りましょう。一条様と、道真様がお稽古なさってると思われますゆえ」
稽古……そうだ。
「早太郎さん。その……サトル様はいったいここで何をなされてるのですか?」
「一条様は、道真さまから、剣の稽古をつけてもらってるのです」
「剣の……稽古?」
私は早太郎さまと一緒に風呂場を出る。
「はい。先週でしょうか。うちに一条様が来たのです。どうか、剣の稽古を付けて欲しいと」
……一週間前。
夜廻りからの帰りが、遅くなった日と重なる。
「どうして、二ノ宮様に?」
「道真さまは天才剣士なのでございますよ!」
えっへん、と早太郎さんが胸を張る。
天才……剣士……
「でも、鎌鼬との戦闘では、剣を使っていらっしゃらなかったのでは?」
「剣を使わずとも強いのです。剣を使えば、もっと強いのであります」
確かに、二ノ宮様は、素手と異能だけで、大妖魔を圧倒していた。
そこに剣が加われば、もっと強くなれるなんて……。
すごい……。
「一条様は、どこか焦ってる様子でございました。早く強くならないとと。だから、道真様のところに来たのでございます」
……彼がここに来た理由は、わかった。
強くなりたいから。
でも……今だって十分に強いのに。
どうして……急に強くなろうとしてるのだろう。
【☆★おしらせ★☆】
先日の短編
好評につき連載版はじめました!!
ページ下部にリンクがございます!!
【連載版】転生幼女は愛猫とのんびり旅をする~「幼女だから」と捨てられましたが、実は神に愛されし聖女でした。神の怒りを買ったようですが、知りません。飼い猫(最強神)とともに異世界を気ままに旅してますので
または、以下のULRをコピーしてお使いください。
https://ncode.syosetu.com/n2793jy/




