表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/247

15 厄神の依り代 3


 大妖魔、鎌鼬をお一人で倒して見せたのは……湯川天神の神主、二ノ宮(にのみや) 道真みちざねさまだった。


 二ノ宮さまはどこかへ行ってしまった。

 どこ行ったんだろう……くしゅんっ。


「レイ! アアこんなにずぶ濡れになって……可哀想に……」


 いつもなら、俺が暖めてやろう、と言ってくるところだった。

 でも……。


「早太郎! 早太郎いるか!」


 サトル様は、私から離れてしまった。……どうして?

 いつもなら、折れてしまうほど、強くぎゅっと抱きしめてくださるのに……。


 どこか、私は彼から、拒まれたような気がした。

 ……どうしたんだろう……。


『なんでございましょうかっ、一条どの!』


 ……そんな私の元に、1匹の子犬が現れたのである。


「子犬……?」

『やや! あなた様は……まさか、一条家の花嫁さまで、ありますかっ?』


「!? しゃ、しゃべった……!」


 犬が……!?

 

『あいや、驚かせて申し訳ないであります。変化!』


 どろんっ、と子犬が煙を立てると……。


 白髪の、美しい男性が現れたのである。


「初めまして、それがしは早太郎。二ノ宮家に使える、家臣であり、神主代行でございます!」

「あ、え……は、はい……レイと申します」


「おお! お噂はかねがね! 井氷鹿いひかどのから伺っておりますぞ!」


井氷鹿いひかさまをご存知なのですか?」

「はい。それがしもまた、神霊が末席ですので」


 ! この子犬様もまた、井氷鹿いひかさま同様に、神霊のおかたなのか……。

 だから犬がしゃべっていたと。


「早太郎。悪いが、レイに着替えを用意してやってくれないか?」

「かしこまりました、であります! ささ、こちらへ」


 早太郎さまが私の手を引く。


「…………」

「どうした、レイ?」


 どうした、はこちらのセリフだった。

 ……私はサトル様に、いっぱい聞きたいことがあるのだ。ここで何をしてるのかとか。


 いったいどうして、抱きしめてくださらないのですか、とか。

 ……でも、私は、怖くて踏み出せなかった。

 おまえには、関係ないと、拒まれたらと。

 ……もちろん優しいサトル様がそんなふうに、理由もなく強く拒んでくるとは思えない。

 なにか、事情があるんだ。

 でも……その事情に、踏み込んで良いのか……わからない。


 彼は私を愛してるという。私だって……そうだ。愛してる。

 ……でも、愛してるからといって、そこまでプライベートな部分に踏み込んで良いのかな。


 母以外の人から、愛されたことのない私には……わからない。

 愛し、愛される間柄の相手に、どこまで深く関わって良いのか……くしゅんっ。


「何をやってるのだ、レイ。早く着替えてきなさい」

「……はい」


 サトル様がを気遣ってくださる。これだけで、いつもうれしい、幸せな気持ちになれるのに。

 今日は雑念が入ってしまい、私の気持ちを乱してしまう。


 私は早太郎さまのもとへ向かう。

 大きなお風呂があった。


 お風呂をいただいて、外に出ると……。


「レイどの! お着替えを用意しておりますぞ」

「きゃぁああああああああ!」


 は、早太郎さまがそこにいたのだっ。

 お、男の方に、は、肌を見られたっ。さ、サトル様にも見せたことないのにっ。


「レイどの、ご安心くだされ。この通りほら」


 早太郎さんの胸の部分が、膨らんでいた。

 腰がくびれており、顔つきもさっきより丸みを帯びている。


「女性……?」

「はい! それがしは両性なのでございます!」


「そ、そうなん……ですね」


 神霊は人間と違うルールで生きてるらしい。

 両性、つまり男性と女性、どちらの性も持つと言うこと。


 今の早太郎様は、女性の姿になってる。

 なら……いい、のかな?


「さ、お着替え完了でございまするぞ!」

「!? は、早い……」


 いつの間にか、私は着替え終わっていた。

 来るときに来ていた着物とは違う……。


 白い上着に、緋色の袴? を着いてる。


「おお、巫女服がお似合いですな! ぜひともわが二ノ宮の家に嫁いで来ていただけないでしょうか?」

「それはできません」


 きっぱりと、私は言う。私は、一条の家に嫁いできたのだから。


「あいや、それは残念。道真みちざね様はまだ未成年とはいえ、そろそろ成人。花嫁を取らねばならないのですが、あのようにぼんやりしておりまして。家臣としては、とても心配なのであります」


 すごい早口で、早太郎様が言う。

 やっぱり、二ノ宮さまは未成年のようだ。


「あれ? でも、極東五華族は、それぞれ許嫁がいて、陰陽の力を使ってるってうかがいましたけど……」


 百春さまにも、しきさんがいたし(実質娘と言っていたけど)。


道真みちざねさまが陰陽の力を使うとき、それがしは女性の姿になるのです。基本は男性姿でありますが」


 ……脳裏に、しきさんの「腐腐腐……♡」という笑顔がよぎった。

 だ、男性同士で……いやいや。


「しかし道真みちざねはお強いので、陰陽の力なんてほとんど使いませんがね」

「神霊をその身に宿してるから……ですか?」


「そうであります! 【雷神】の異能者なのでございます!」

「らいじん……」


 なんだか、強そうな名前だ。

 でも……納得した。二のとなった鎌鼬を、一撃で倒したのは……雷神の異能があったから。


「しかし道真みちざねさまは、雷神の依り代であるが故に、色々と苦労されておるのでございます」

「…………異能の制御的な意味でしょうか?」


「おお! よくわかりましたね!」

「似たような事例を、いくつか見ておりますので……」


 一条家の黒服さんたちや、その他、寄生型異能者たち。

 あの人達は、異能が強すぎるせいで、制御できず、日常生活を送れないでいた。


 二ノ宮さまもそうだったとしても、特に不思議に思わない。

 ……まあ、ぬえさんから教えて貰ったことではあるけど。


「さ、お着替えなされたら、訓練場へ参りましょう。一条様と、道真様がお稽古なさってると思われますゆえ」


 稽古……そうだ。


「早太郎さん。その……サトル様はいったいここで何をなされてるのですか?」

「一条様は、道真みちざねさまから、剣の稽古をつけてもらってるのです」


「剣の……稽古?」


 私は早太郎さまと一緒に風呂場を出る。


「はい。先週でしょうか。うちに一条様が来たのです。どうか、剣の稽古を付けて欲しいと」


 ……一週間前。

 夜廻りからの帰りが、遅くなった日と重なる。


「どうして、二ノ宮様に?」

道真みちざねさまは天才剣士なのでございますよ!」


 えっへん、と早太郎さんが胸を張る。

 天才……剣士……


「でも、鎌鼬との戦闘では、剣を使っていらっしゃらなかったのでは?」

「剣を使わずとも強いのです。剣を使えば、もっと強いのであります」


 確かに、二ノ宮様は、素手と異能だけで、大妖魔を圧倒していた。

 そこに剣が加われば、もっと強くなれるなんて……。


 すごい……。

 

「一条様は、どこか焦ってる様子でございました。早く強くならないとと。だから、道真様のところに来たのでございます」


 ……彼がここに来た理由は、わかった。

 強くなりたいから。


 でも……今だって十分に強いのに。

 どうして……急に強くなろうとしてるのだろう。


【☆★おしらせ★☆】


先日の短編

好評につき連載版はじめました!!

ページ下部にリンクがございます!!


【連載版】転生幼女は愛猫とのんびり旅をする~「幼女だから」と捨てられましたが、実は神に愛されし聖女でした。神の怒りを買ったようですが、知りません。飼い猫(最強神)とともに異世界を気ままに旅してますので


または、以下のULRをコピーしてお使いください。


https://ncode.syosetu.com/n2793jy/



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ