5 ザシキワラシの悪戯 1
ぱり……ぽり……。
ぱり……ぽり……。
……何かをむしゃむしゃと食べる音がする。ぱちっ、と目を覚ます。
「…………」
「あれ? あなたは……ザシキワラシさん?」
「…………」よっ。
おかっぱ頭の、小さな女の子が、枕元に座っている。
着物を着て、糸目のこの子は、ザシキワラシ。
私の体内妖魔であり、いちおう、私の前世の姿だったりする。
「え、ええっ? な、なんで……ここに?」
「…………」ぽりぽり。
ザシキワラシさんはひたすらに、お煎餅をかじってる。
おかしい……。彼女は体内妖魔だ。
霊廟の中から、出れないはず……。
「どうしてここにいるんですか?」
「…………」
ぴょんっ、とザシキワラシさんが近づいてきて、私の膝の上に乗っかる。
「ちかれた」
と、一言。
「ちかれた……?」
「…………」ぽりぽり。
「あの、どういう……?」
「…………」ちらちら。
……こちらに目配せしてくる、ザシキワラシさん。
「なんでしょう?」
「…………」もみもみ。
何かを揉む動作をする。
「肩を揉んで欲しいのですか?」
「…………」こくん。
私は言われるがママに、肩を揉む。
ザシキワラシさんは、いつも糸目だけど、今は気持ちよさそうに、目を細めていた。
「ちょっと、ぶらり。ひとりたび」
「は、はあ……。旅?」
「そー。たび」
……何を言ってるのだろうか。
「うみむこう。ひどいやつら。ゆるせなかった。だから……」
しゅっ、と。
ザシキワラシさんが拳を繰り出す。
「え、えと……だから?」
「ちかれた」
か、会話にならない……。マイペースすぎる。
……本当に、この子私の前世なのだろうか。
「わたし。ちかれた。すこし。きゅーよー」
「休養?」
「れーりょく。ちょくせつ。ちゅーちゅー」
……話をまとめると……。
どうやら、ザシキワラシさんは、どこかへ行っていた。
それで、霊力を使い、疲れた。
霊力を回復するために、霊力タンクである私のもとに現れた……。
「そんな感じですか?」
「りかいりょく。にじゅうまる」
あ、あってるのかな……。
「ねこそぎ。うばった」
……不穏なワードが繰り返されてる。
「あ、あの……本当に何してきたんですか?」
「しーくれっと。めいくす。あ。うーまん。うーまん」
「か、会話してくださいよぉ~」
会話難しい……。しかし私が困惑してる様子を見て、ザシキワラシさんはケラケラ笑っている。
「れい。かわいい」
「あ、ありがとうございます……」
「れい。からかい。にじゅうまる」
……からかいがいがあるって、言いたいのだろうか。
それは……さておき。
「霊力は、どれくらいで回復するのですか?」
「わからん」
「そうですか……」
「しばし。とーりゅー。れい。もてなせ」
「わ、わかりました。そうですね……朝餉でも食べます?」
「くー」
朝ご飯をご所望のようだ。
私が立ち上がろうとすると、ザシキワラシさんが頭の上によじ登ってくる。
不思議と、重くない。まあ、妖魔だから……?
「ここ。ながめ。にじゅうまる」
「あ、あの……危ないですよ?」
「ごー」
会話が……成り立たない……。
なんてマイペースな御方だろう。
でもケガしたら大変。
「落ちたら危険ですので、降りてください」
「だいじょうぶ。わたし。しっぱい。しない」
……どうにも話を聞いてくださらなかったので、このまま移動する。
「おや、レイお嬢様。おはようございます」
部屋の外に出ると、夜の番を努めてくださっていた、朱乃さんが挨拶してくる。
「おはようございます……あ」
ザシキワラシさんを頭に載せてる状態だった。
頭に小さな女の子を乗せてる……。明らかに変だ。
「あ? どうしたのですか?」
「え? あの……見えないのですか?」
「? 何がですか?」
見えて……ない? ザシキワラシさんが?
「ひゃっ!」
朱乃さんの背後に、ザシキワラシさんが回っていた。
お尻を撫でている。
ばっ、と朱乃さんが後ろを振り返るも、ザシキワラシさんは居ない。
で、私の頭の上に乗ってる。
「あけの。しり。あんざんがた。にじゅうまる」
え、え?
な、何してるのだろうかこの子……。
「お嬢様。大丈夫ですか!?」
「え? な、なにが……?」
「今、見えない何かの気配を感じました。妖魔やもしれません!」
……正解。妖魔です。
頭の上でケラケラ笑ってます……。
「だ、大丈夫ですよ。多分風ですよ。多分」
妖魔ですと答えて、滅せられたら可哀想だ。だから……黙っておく。
「な、なるほど……風……ひゃっ!」
ザシキワラシさんが、また朱乃さんのおしりをっ!
「いいおしり。やわらかさ。もちもちかん」
ザシキワラシさんっ。
ケラケラと、楽しそうに笑うザシキワラシさん。
……あ、あれ?
これ、今日一日ズッとこんな感じ……?
「ここ。よき。たのしい。なー?」
あの……それはいいんですが、あまり黒服さんたちに悪戯は辞めてあげてください。
やるなら……私にしてください。
「れい。しり。うすい。つまらん」
……お尻、肉ついてないから、触ってもツマラナイ……と?
そ、そんな……。
「もっとくえ。な?」
「はい……」




