3 雪の神霊 3
極東の大雪の原因、神霊を見つけるため、私も夜廻りに参加させていただくことになった。
「お嬢様、寒くないですか?」
朱乃さんが心配そうに言う。
「レイちゃん! 襟巻きした?」
と蒼次郎君が不安そうに尋ねてくる。
「はい。襟巻きも、手袋も。防寒はバッチリですよ。蒼次郎君も風邪引かないようにしてね」
「うんっ!」
蒼次郎君たちも、これから夜廻りだ。
神霊の捜索と同時に、妖魔退治も行わないと行けない。
そっちは、真紅郎さんをリーダーとして、一条家の戦闘黒服さんたちがやってくれるらしい。
神霊の捜索は私、そして……サトル様だ。
サトル様も私とおそろいのお召し物をしてる。
……西の大陸では、ペアルックというものがある。
恋人が同じ服を着てあるくというものだ。
それを知ったサトル様は、なにかにつけて、私とおそろい、あるいは似てる服を着るようになったのだ。
……私のこと好きだってことが伝わってくるので、こそばゆくもあり、けれど……うれしくもある。
「では参ろう。神霊捜索に」
「はい」
今もちらほら……と雪が降り注いでいる。
それも、おかしなことに、空は完全に晴れてるのだ。
真紅郎さんが、科学班の百春さまから聞いたところによると、どうやらこの雪の被害は東都全域に広がり、なおも効果範囲を拡大中とのこと。
神霊を早く見つけないと、どんどん被害が大きくなる。
そうしたら……駄目だ。東都の人たちを守るのは、一条の使命なのだから。
……一条家の花嫁として、この事件、必ず解決してみせる。
一条家の、皆様のため。そしてなにより、東都の方達の安寧のために。
「れ、レイ……二人きりだな」
隣を歩くサトル様がそうおっしゃる。
「そうですね」
東都の人たちはガス灯のおかげで、夜遅くまでで歩ける。
けれど、深夜を過ぎたあたりから、皆外に出なくなる。妖魔の活動が活発になるからだ。
丑三つ時、という時間帯が特に妖魔の出現数が跳ね上がるという。
「レイ、安心しろ。妖魔が出ても俺が……」
「【結】!」
鵺さんの模倣で手に入れた、霊亀のチカラで……妖魔を捕捉する。
空中に、虫のような妖魔がいたのである。
「あれは、妖魔ですよね?」
「あ、ああ……虫怪だ。魚妖同様、雑魚妖魔だな」
「やはり。私程度の、未熟な結界術に捕まるくらいですからね。【滅】!」
結界が爆ぜ、中にいた虫怪が爆発四散する。
よし……。
「…………」
「サトル様? いかがなされたのですか?」
サトル様が頭を抱える。
「俺は、自分が恥ずかしい……」
「はずかしい……? サトル様に恥ずかしいところなんて一つも無いですよ?」
いつだって東都のたみのため、夜遅くまで頑張ってくださってる。
どこも恥ずべきところはない。
「レイ。俺はな、レイに頼られたかったのだよ……」
「????」
「だから……ほら、おまえは夜廻り初めてだろう? 暗くて怖い! とか。妖魔、怖い! とか。そう言って俺に抱きついてくれて、よし俺が助けるぞ! みたいな。……そういうのを期待してたのだ」
な、なる……ほど……?
「夜は怖くないのか?」
「ええ。西の大陸にいるときは、普段からあかりの無い、物置で暮らしてましたし」
「本当に、ツラかったな……おまえ……」
だきぃ! とサトル様が私を抱きしめてくださる……。
人目がないのを良いことに、私も……きゅっと抱きかえす
「さ、サトル様は……私がか弱いほうが、お好きですか……?」
ちょっと……いえ、かなり、気になってしまう。
「いや、強いおまえも好きだ。というか、どんなおまえも好きだ」
「そう……ですか……」
ほわほわ……と胸が温かくなる。この人は、あるがままの私を愛してくれてるんだって、伝わってくる。
でも……駄目。今は、仕事中。
「サトル様。参りましょう」
「そうだな。神霊を探さねば。しかし……東都は広い。どうする?」
「百春さま情報によると、降雪量は淺草が一番多いそうです。それはつまり、氷の神霊が淺草にいるからかなと」
どうして淺草にいらっしゃるのかは不明。
でも、好都合だ。広範囲を探さずに済む。
「とはいえ淺草も広いぞ」
「はい。なので……異能を使います。【百目】!」
百春さまの異能、【百目】。
文字通り、100の眼を扱う能力だ。
私の周囲に光の球が無数に浮かび上がる。
これは霊力で作られた仮想の眼球。
霊力の眼球を空中に散らばらせる。
「百春さまのように、調べ物をするのは苦手ですが、こうして広範囲をボンヤリと見回すのでしたら、私でもできます……って、サトル様?」
サトル様はポカン……としてる。
「どうなさったのです?」
「いや……レイ。おまえ……いつの間にこんなに、百目の異能を自在に操れるようになったのだ?」
「霊亀さまから、ご助言いただいたのです。百目の異能は、対妖魔、対異能者戦で役に立つと」
あの助言を受けてから、私は家で暇な時間を見つけては、百目を操る訓練をしていたのだ。
異能者の先輩である、朱乃さんや蒼次郎君に、異能の操るコツを教えて貰ってる。
「レイは勤勉で、素晴らしいな」
サトル様に褒められると、頭がぼーっとして、幸せな気持ちになってしまう……。
普段ならいいけれども、今は仕事中なのだから……。
「! 強い霊力を、感じます」
百目がまばゆい霊力の光を感知した。
でも嫌な気は……感じない。不思議な力の波動。
「おそらく神霊だろう。妖魔と違い、神霊は邪気を発しないという」
「じゃき……?」
「妖魔特有の気配だ。急ぐぞ」
「はいっ!」




