【番外編】
暗闇の中で、玉藻さんと向かい合い、閉心術を習っている。
心を閉ざし、他者の侵入を拒む術。これには強力な呪力、すなわち「強い恨みの念」が必要らしい。
『さぁ、レイ。君の実家のことを教えてほしいな』
玉藻さんの声が脳裏に響く。粘着質で、甘い毒のような声だ。
私の、実家。
「サイガ伯爵家に生まれました」
『伯爵家の令嬢が、どうしてここ、極東にきたんだい?』
「姉のアリアルが、極東の一乗悟様と、結婚することになったからです」
『そうかそうか。それで? どうして姉ではなく、君がきたんだい?』
どうして。
それは。
「あの……父が」
『父?』
「はい。私の父が、アリアルは可愛いから、極東の悪魔のところになんて、行かせたくないって」
『ああ、なるほど……身代わりにしたんだね。あの、屑父は』
屑父。
その言葉が、すとんと胸に落ちた。
そうだ。あんな男は父ではない。ただの屑だ。
『ひどいね、君の屑父は』
「……はい。あの屑のせいで、私は知らない土地に、一人で捨てられることになりました」
『それは誰が悪いんだい?』
「あのクソ親父のせい」
『はは! クソ親父か。いいね、その通りだよ。あんなクソで屑な親が、君を不幸においこんだんだ』
玉藻さんが、ケラケラと笑ってくれた。
ふふ、嬉しい。胸のつかえが取れたようだ。
ちょっと言葉を悪くアレンジしてみたけれど、玉藻さんは喜んでくれている。
でも、良いんだ。人の悪口言っても。
この場に居ない人の悪口を言うのって、こんなに楽しいことだったんだ。
『そうだね。特に、誰かと一緒に、この場にいないやつの悪口を言うのって、トテモ楽しいだろう?』
「うん……すっごく楽しいよ、玉藻……」
『玉藻?』
「あ、ごめんなさい……」
調子に乗って呼び捨てにしてしまった。私は慌てて口を押さえる。
『いいんだよ、レイ。妾はうれしい。いいんだよ、玉藻って呼んで。敬語もいいさ。妾とおぬしの中ではないか』
敬語も、さんづけも、要らない。そうだよね。玉藻と私は、共犯者だもんね。
『そんな友達のレイに、妾は秘密を一つ授けよう』
「秘密……?」
『うむ。妾、玉藻には、たくさんの名前がある。化生の前。九尾の狐。妲己。そして……』
「そして?」
『これは、君にちょっと教えたくないなぁ』
「おしえてよ」
『教えたらきっと君は戻れなくなるよ?』
「いじわるしないで、教えて欲しいな」
『そうか……じゃあこれは契約だ。妾は君に名前を明かす。しかし、その代わりに妾が許可しない限り、1.【名前を教えて貰ったことは口外しない】こと、2.【契約を忘れること】』
「ええと……つまり?」
『妾の名前は、妾が許可しない限り、外で言えない。そして許可しない限り、妾の名前はおろか、この契約ごと忘れてしまう』
「…………」
なんで、そんな複雑な契約を。
それに契約ってなんなんだろう。
『いやか? ならしょうがない。妾の一番大事な名前は教えられないな』
「あ……やだ。教えて欲しい」
理屈よりも先に、知りたいという欲求が勝った。玉藻さんが、とても寂しそうな声で言うものだから。
せっかくできたお友達を、悲しませたくなかった。
『でははっきり口にしてもらおうか』
「うん……。私、玉藻さんと契約を結ぶ」
くくく、と玉藻さんが妖艶に唇を歪めた。
『じゃあ教えるよ。妾の、玉藻の前の、本当の真名を』
彼女は、私の耳元で囁くように告げた。
『妾は、白面金毛九尾狐だよ』
「白面金毛九尾狐……」
『ご存じ、極東人たちが蛇蝎のごとく嫌っている大妖怪、【白面】とは妾のことさ』
【お知らせ】
※12/27(土)
好評につき、先日の短編の、連載版、投稿しました!
『【連載版】スキル【リサイクルショップ】で捨てられた悪役令嬢(英雄)や神器を仕入れて修理したら、いつの間にか最強国家になってました 〜捨てられ貴族の楽しい領地改革〜』
https://ncode.syosetu.com/n0648lo/
広告下↓のリンクから飛べます。




