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【番外編】


 玉藻さんに閉心術を習うことになった。

 場所は、一乗家が所有する、和室の一角。

 夜の静寂の中、凛とした井草の香りが鼻をくすぐる。

 朱乃あけのさんには、入ってこないように言っておいた。


 ちょうど、今日サトル様が夜廻に出かけるし。


「……『厄介なのは、最強異能者の守美すみだけだが……まあそれも問題ない』」


 玉藻さんが、ふと、独り言のように呟いた。

 あれ?

 今、私。


「何か……言った……?」


『いいや、レイ。大丈夫だよ。さぁ、閉心術の修行をしよう』


 玉藻さんは鈴を転がすような声で、優しく微笑んだ。


「え、でも……今、お義母さまが、どうとかって……」


『レイ。わらわは大丈夫だといったんだよ? 信じてくれないのかい? 悲しいね』


 玉藻さんが悲しげに目を伏せる。


「あ! ごめんなさい!」


 私は慌てて身を縮こまらせ、ぶんぶんと首を横に振った。

 玉藻さんを悲しませちゃ、駄目だ。玉藻さんの言うとおりしないと。


「気にしません」


『それでいい……。さて、レイ。閉心術を教えよう。修行法は、君ととても相性が良い』


「相性?」


 私はこてん、と小首を傾げた。


『そうだ。閉心術の源になっているのは……【呪力】だ』


「じゅ……りょく?」


『人が持つ負の感情だよ』


「それって……陰の気?」


『そう。ただ、陰の気のなかの特に、【恨み】【辛み】の部分……。それが呪力』


 なるほど。

 陰の気の中に内包する形で、【呪力】というものが含まれているらしい。


『陰の気を練るのと基本は同じだ。感情を……体の中で爆発させる。それだけ。呪力を練るためには、さらに強い、恨み、辛みを持つ必要がある』


「そんな……恨み辛みだなんて……私には……」


『あるだろう? 今なお……胸に抱いている、憎しみの感情が』


「!?」


 図星を突かれ、私の肩がびくりと跳ねた。

 玉藻さんが言いたいのは。


「私の……実家に対する感情……ですか?」


『そのとおり。君はこっちに来て、すっかり忘れてしまってるようだが……忘れていいものなのかな? 家族が、君にした仕打ちについて』


「っ!」


 心臓を冷たい手で鷲掴みにされたような感覚。

 玉藻さんが言ってるとおりだ。すっかり、忘れていた。

 こっちでの生活が、あんまりにも、楽しくて。


 でも。

 私の心の中には忘れられない記憶が、ある。家族に、無能と言われ続けてきた、十数年間の、記憶。

 浴びせられた罵声の音、蔑むような視線の冷たさが、鮮明に蘇る。


『レイ。さぁ、思い出していこうか。あの家族……サイガの家が、君にした仕打ちを。一つ、一つ……丁寧に思い出していこう』


「…………でも」


 でも、と。思ってしまう。私は膝の上で、スカートをぎゅっと握りしめた。

 そんな、他人を恨むなんて。


『いいのだよ。レイ。負の感情にストップをかけなくて。さぁ、まずは言ってみよう。あいつらが……嫌いって』


「……それだけでいいですか?」


『ああ、そうさ。まずは言うだけでいい。嫌いだと。さぁ……』


「…………」


 恨みを抱くことは、やっぱりまだちょっと躊躇われる。でも、嫌いと、言葉にして、形にすることだけなら。


「……嫌い」


 ぽつり、と。

 一言、そう言うだけで、胸の奥に溜まっていた黒い何かが、堰を切ったように溢れ出した。

 後から後から、口をついて出る。


「嫌い……大嫌い……あんな、人達なんて……死んじゃえばいい」



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― 新着の感想 ―
>「……『厄介なのは、最強異能者の守美すみだけだが……まあそれも問題ない』」 やっぱ悪だくみありそうなやつじゃねえか! しかもわざわざレイの負の感情を増幅させるようなことをしおってからに。 もうとっと…
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