【Side】日車
うちはひのわの相棒、火車の日車や。
今回、レイちゃんたちは力を合わせて、妖魔・いつきを滅することに成功した。
……せやけど、正直いちばん驚いたんは、うちの相棒の心の変化や。
忘れとるかもしれんけど、ひのわはもともと「妖魔はすべて悪、全部滅ぼすべき」っていう信念を持っとった。
五十嵐家の家訓みたいなもんでな。異能犯罪者も、妖魔も――異能を使って人に危害を加えるもんは、全部許されへん。そういう、偏った考えを持っとったんや。
妖魔は敵か、もしくは敵を倒すための道具。……そう思ってたんや。
……せやのに。
ひのわは、いつきが滅せられて泣いとるレイちゃんの肩を、そっと抱いとった。
「人は、死んだら泣くもんよ」
……まさか、あの子の口から、そんな言葉が出るなんてな。
それってつまり、妖魔を“モノ”やなく、自分らと同じ“命”として見てへんかったら、出てけぇへんセリフやろ?
ただの異能者がそう言うなら、まあ分からんでもない。
でも、うちのひのわは、妖魔を心底憎んどったんやで?
……そんな子が、妖魔の痛みを知り、心を理解して、共感を示すようになるなんて。
これ、レイちゃんも、ひのわ自身も、あんまり大ごとに思っとらへんやろうけど――とんでもないことやと思うで。
レイちゃんの存在が、極東に生きる異能者の“心のあり方”を、根っこから変えてしもうてるんや。
人を変えるって、ほんま難しい。特に、心の中の“正義”を揺るがすのは、なかなかできることやあらへん。
レイちゃん。
あんた、ほんまにすごい子やで……。
せやからこそ、うちは……ちょっと怖い。
もしも――もしもやけど……レイちゃんが、白面の手に堕ちてしもたら……。
その影響力をもって、敵になってまったら……どうなるか。
いや……大丈夫や。きっと、極東の連中は、あんたを守ろうとするやろ。
今や、極東はあんたを中心に、まとまりかけとるんやからな。
きっと、守り抜く。
……せやから、大丈夫やろ。大丈夫や。
――な?




