荒れ狂う山の神
順調に、野槌を削っていく。
……だが、違和感がある。あまりにも、反応がなさすぎる。
こちらがいくら攻撃しても、向こうはまったく動じない。
まるでそもそも効いていない、とでも言わんばかりに。
嫌な予感がした。
私は神霊・眼鏡丸さんから預かっている、眼鏡の宝具を装着する。
「!?」
邪気が、減っていない。
それどころか、むしろ増えている。
そして今、ズズズズウ……と、禍々しい気配が立ち上がっていくのが見えた。
「皆さん、固まって! 敵が大きな攻撃を仕掛けてきます!」
ひのわさんと真紅郎さんがうなずき、私の元へ飛来する。
私は鵺の模倣で得た、霊亀の結界を展開した。
何重にも重ねた結界が、皆を包み込む。
その瞬間、野槌の体が――ずずず……と、物理的に膨れ上がった。
「「まずい……!」」
ひのわさんも、真紅郎さんも、ただ事ではないと即座に察したようだ。
それぞれが異能で、私の結界のさらに上からガードを重ねる。
カッ――!
まばゆい閃光が視界を焼いた直後、凄まじい衝撃が襲いかかる。
耳をつんざく爆音が遅れて響き、私たちは空中で吹き飛ばされた。
結界に守られながらも、まるで弾かれたボールのように空中を転がる。
防いだはずの攻撃が、なおも私たちを貫いていた。
……ようやく、衝撃波が収まり始める。
私は結界を解除し、地上に転がった体を起こした。
「くっ……!」
鈍い痛みが、頭を殴るように走る。おそらくどこかを強く打ったのだ。
「ひのわさん、真紅郎さん!? 大丈夫ですか!?」
私が傷を負っているなら、彼らも無事では済んでいないはず。
そう思って視線を向けた、そのとき――
「!?」
二人とも、意識を失って倒れていた。
霊力の波動は感じる。生きてはいる……でも――
「ひどい……」
ひのわさんは、片腕を失っていた。
真紅郎さんは、両脚がもげていた。
……私の失態だ。
私の力が至らなかったから。
かつての私なら、ここで立ち尽くし、ただ悔やみ、泣き崩れていた。
――でも、今の私は違う。
私は全身に力を込める。
ずずずう……と、霊力が一気に跳ね上がったのを自覚する。
私は呪禁を行使し、二人の治療を始めた。
欠損していた手足が、みるみる再生されていく。
青ざめていた顔にも、血の気が戻る。これで……大丈夫。
ひとまず、彼らの命は守れた。
だが、問題は――
「野槌……再生、してる……」
私は霊力感知で野槌を観察する。
すると――私たちが削り取ったはずの部位が、元通りになっているではないか。
「そんな……」
あれほど苦労して追い詰めたのに……まったくのノーダメージだなんて。
「レイ」
ふわり、と後ろから抱きしめられる。
……振り返らなくてもわかる。
この温もり、この霊力、この匂い――
「サトル様……!」
私の愛しい人――一条サトル様が、そこにいた。
穏やかな微笑みを浮かべて、私を包み込んでいた。




