信濃の国
私たちは北信という場所の、寺を目指す。
そこに山の神がいらっしゃるようだ。
「徒歩で行くとなると、骨が折れるな」
ここからどのくらい掛かるかは不明。けれど、見渡す限りでは、寺らしき場所は見えてこない。
いずれにせよ、歩きだと時間がかかりそうなのは確かである。
「大丈夫です。【タオさん】」
私の目の前に、ぐぉ……と大きな穴が開く。
そこから吐き出されたのは、自動車だ。
「!? 俺たちの乗ってきた自動車か?」
「はい!」
「なるほど……れいたんが異空間に仕舞っていたのだな? こうなることを予測して。さすがだ」
え……?
「いえ、違いますけど」
「え? ど、どういうことだ……?」
「? 自動車を取り寄せたんですけど……」
「は……?」
ぽかーん、としてるサトル様……。
アレ……?
何か、私オカシナ事言ってるだろうか……。
「れ、レイ……? あんた、どうやって自動車を取り寄せたの?」
「え? どうやってって……タオさん……饕餮さんに、ここと、自動車のある空間を、食って貰ったんですけど」
「は……?」
あ、あれ……?
どうしたんだろう。ひのわさんがぽかーんとしてる……。
「だ、だって……タオさんは万物を食べられるんですよ? なら、二つの地点をつないでいる空間を食べれば、こうして遠くの物も引き寄せられるかなって……」
そして実際にできたし……。
「……えっと、レイ? ど、どうやって自動車のある空間を特定したの?」
「あ、それは簡単です。霊力を探知しました」
「霊力を……?」
「はい。私の霊力をマーカーとしたんです。で、自動車の位置を割り出して、二つを結ぶ空間を食ってもらったんです」
「つ、つまり……霊力でマーキングしていれば、そこへ一瞬で移動したり、逆にもの取り寄せたりできるってこと?」
「はいっ。すごいですよね、タオさんはー」
……あ、あれあれ?
どうしたのだろう。皆、なにかオカシナ物を見る目でみてくる……。
「レイってさ、異能者になってまだそんなに日が経ってないのよね?」
「一年も経ってないな……」
「そう……はぁ。やっぱり居るのね、本物ってやつは……」
サトル様とひのわさんが、大きくため息をつく。
ああ、私なにか粗相をしてしまったんだろうか……。
「れいたんは本物だな」
「レイは本物ね」
「お嬢様は本物ですね」
え、えー……?
本物って……何のことなんだろう……。




