信濃の国
霊道をとおり、我々は信濃へとやってきた、はず。
はず、という曖昧な表現になってしまうのは、ここがどこだか、誰もわからないからだ。
私たちがさっきまでいた、蛟さまの神域があったのは、甲斐という街だった。
そこから霊道をとおり、転移してきたのだ。
別に蛟さまを疑っているわけではないけど、ここが信濃なのかどうか、わからない。なぜなら、私は信濃にきたことがなかったからだ。
「無事信濃についたようですよ」
と、真紅郎さんが言う。
その手のひらの上に、一匹のコウモリが乗っている。
「このコウモリは私の眷属です。彼らに空から、周囲の様子を見てきてもらいました」
「なるほど……」
私たちのために、先回りして、偵察していただいたようだ。
「ありがとうございます」
「いえ、お気になさらず」
それにしても、真紅郎さんの異能って、血液を操作するだけじゃあないんだ。
コウモリを眷属にしてるって、明らかに血液操作と関係ないし……
「真紅郎の体内妖魔は、吸血鬼だ」
サトルさまが私の疑問に答えてくださる。
「吸血鬼ができることが、真紅郎にもできるようになるのだ」
「なるほど……」
確かに西の大陸でも、吸血鬼といえば、コウモリとともに現れるイメージがある。
「色々できてすごいです!」
「ふふ、お嬢様に褒めてもらえると、とても嬉しいです。お嬢様は心のお綺麗な方ですから特に」
「? えと?」
心が綺麗だと、なんで褒められてうれしいんだろう……
「おい真紅郎。俺の女に粉をかけるのはやめろ」