16 レイの真価 5
「あ、あの、真紅郎さん」
「どうかなされましたか、お嬢様?」
全身包帯グルグル巻きの真紅郎さんが、首をかしげる。
「真紅郎さんって、寄生型の能力者ですよね? なら、私の異能殺しを付与すれば、異形じゃなくなるのでは?」
朱乃さんたち、黒服の皆さんは、うちに秘めた妖魔の力を制御できずに、異形となっていた。
でも私が力を付与すれば、元の人間の姿に戻れる。
「ありがとうございます。確かに私は寄生型能力者です」
「なら……」
「ですが……無理です」
「無理?」
どういうことだろう……?
朱乃さんが説明する。
「兄さんの異能は、【吸血鬼】なのです」
「! 吸血鬼……」
西の大陸にもいた。
血をすう鬼のことだ。確か……特徴は、日の光に弱い……だった。
「私は吸血鬼、しかも、吸血鬼の始祖ともいえる存在を飼っております」
「すごい……」
「ですが、そのせいで、私の肌は光に、とても弱くなっているのです。夜の月明かりや、人工的な電気の光であっても、私はそれを浴びるだけで瞬時に灰になってしまいます」
! そんな……お辛い。
じゃあ、もう一生、包帯をはずせないではないか。
「レイが異能を使うためには、相手に直接触れる必要がある。真紅郎に異能を付与するためには、包帯を解かねばならない。が、そうしたら光を浴びて灰になり死ぬ……」
「そういうことです。なので、お気持ちだけ受け取っておきます」
真紅郎さんが、笑っている。
……でも、駄目だ。それは駄目。
だって、知ってるから。
真紅郎さんの、その微笑みは……ツラいことを隠すための、笑み。
「駄目です、真紅郎さん」
「お嬢様……?」
私は彼に近づいて言う。
「無理して、笑わないでください。本当はツラいのに、周りを心配させまいと、笑うのは……駄目です。それじゃあ、あなたが救われません!」
「……どうして、そう思うのですか?」
真紅郎さんの笑みがこわばる。
「私の母が……そうだったのです」
私の母は、無能を産んだことで、サイガの家で酷い扱いを受けていた。
私を傷つけまいと、笑い、そして……誰よりも傷ついていた。
私は真紅郎さんと、母を重ねていた。
絶対に、助けたいと、そう思った。
「真紅郎さん。私に、考えがあります。どうか、私を信じて、私に治療させていただけないでしょうか……?」
この家の人たちは全員優しい。
そんな優しい人たちには、心から……笑っていて欲しい。
……母や私のように、不幸に……なってほしくない。
「………………」
真紅郎さんはしばし私の目をみたあと……。
「……かしこまりました」
「に、にいちゃんっ。だ、大丈夫なのかよぉ……?」
蒼次郎くんが、不安げに言う。
「大丈夫だ、蒼次郎。私は……レイお嬢様の力と言葉を、信じる」
サトル様の妻だから、ではなく、私を信じてくれる。それがうれしくて……泣きそうになった。
でも、泣かない。まだ、終わってない。
「レイよ。どうするのだ? 包帯をとったら真紅郎は死ぬのだぞ?」
「はい、ですので……死ぬまえに、治療します。真紅郎さん、包帯をとってください」
彼がうなずいて、顔の包帯をほどく。
日の光を浴びた真紅郎さんの肌が焼け、頭部が灰になる……。
私はその瞬間、呪禁を発動する。
崩壊する細胞を、呪禁で再生。
「灰になった頭が、元にもどった!?」
そして……この状態で、私は自分の額を、くっつけ、異能殺しを発動。
お願い、治ってください……!
カッ……! と強い光があたりを包む。
……そして、光が収まると……。
「真紅郎にいちゃん! 肌が……焼けてないよ!」
そこに居たのは、金髪の、とても美しい男性だった。
金髪、金の目。面長で、切れ目。
肌は処女雪のごとく真っ白で、シミ一つ無い。
包帯をとっても、さっきのように、肌が焼け、灰になることはない。
「しんじ……られません。異能を……制御できてます……」
「兄さん!」「真紅郎にいちゃーーーーーん!」
百目鬼姉弟が真紅郎さんに抱きつく。
「もう日の光に怯えずにすむんだね!?」
「よかったぁ、よかったよぉお……!」
……二人が、泣いて喜んでいる。
私もうれしい。
良かった、彼を助けることができて。
「レイお嬢様! ありがとうございます!」
「にいちゃん助けてくれて、ありがとー!」
朱乃さんたちが笑っている。
そして……真紅郎さんが、私の前で膝をついた。
「感謝いたします、レイお嬢様。命を救ってくださったこのご恩は、一生忘れません」
「いえ、気になさらないでください。私は……サトル様の、その……妻として……当然のことをしたまでです」
すると後ろから、サトル様が強くハグしてきた。
「レイ……おまえは、本当に素晴らしいぞ! 最高だ! おまえは、幸運の女神だ!」
お、大げさな……。
ああ、でも……後ろからハグされるのも……心地よいな。
大樹に寄りかかってるような、安心感を覚える……。
「それに、凄まじく精密な霊力操作だぞ。呪禁をしながら、異能を使うなど、不可能だからな」
と、サトル様がおっしゃる。
「どういうことですか?」
「異能と呪禁(霊力操作)は、別のもの。それを同時に行うのは、それはもはや、右を見ながら、左を見るようなものなのだ」
……た、確かにそれは不可能……。
そんなに難しいことだった、なんて。
「いったいどうやったのだ?」
「わ、わかりません……無我夢中で……でも」
理屈はわからない。歩き方を人に説明できないように。
説明はできないけど、しかし、できる。その強い確信は、ある。
「極東最強は、言い過ぎではなくなったな」
「はい、レイお嬢様は、間違いなく、最強の異能者でございます」
「すごいです、お嬢様!」「レイちゃんやべー! すっごーい!」
皆さんが褒めてくださったことも、もちろんうれしい。
けど私は、百目鬼家の皆さんが、笑っていることのほうが重要で……そっちのほうが、うれしかった。
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