強くなるための訓練 3
……まぶしくて目を閉じ、開くと……。
そこは、先ほどまでとは、別の場所だった
「ここは、ひのわの霊廟のなかだよ」
「幸子ちゃん!」
幸子ちゃんをぎゅっと抱き上げる。
「ひのわさんの霊廟……」
「うぃ。ひのわの心の中」
「ここが……」
……目の前に広がっているのは、火の海だ。
木造の建物が、燃えている。
こんな、怖い風景が……ひのわさんの心の中……。
「霊廟、必ずしも心の形とイコールじゃあない。昔の、トラウマとかが、心象風景になってるときがある」
「トラウマ……」
この火の海が、彼女のトラウマだというの……?
「って、レイ!? なんであんたここにいるのよ!?」
ひのわさんが私を見てぎょっ、と目をむいていた。
「ちなみにさっちゃんもおるでよ?」
「ここあたしの心の中なのに、どうして他人が入ってこれるのよ……」
「ふふふ、さっちゃんは特別。レイも特別。ざっつおーる」
「あ、そう……」
幸子ちゃん、答えをはぐらかした感じがした。
……私も、どうして他者の心の中に入れたのかわからない。
「レイ、すでになんどか霊廟の中に入ってる。その経験があるから、入れた」
「なるほど……」
燃えさかる炎を、ひのわさんはじっと見つめていた。
……その瞳には、複雑な色が浮かんでいた。
昔を懐かしんでいるようにも見えるし、辛い過去から目をそらしているようにも見える。
……いずれにせよ、この風景は、ひのわさんがあんまり好きな風景ではなさそうだ。
「……ここに、居るのね? 火車が」
きょろきょろ、とひのわさんが周囲を見渡す。
……妖魔の姿は見られない。また、邪気も感じられなかった。
霊廟の中だからだろうか……。
「…………」
霊廟。心の中っていうけど、でも心ってどこにあるんだろう。
形のあるようなものじゃあないし……。
そう、ここ……そうだ。神域の中に近いかもしれない。
それは、そうか。神域とは心の中をアウトプットしたものっていうし。
「よぉよぉ、そこの綺麗なおねえちゃん? わいと茶ぁでもしばかない~?」
急に、誰かに話しかけられた。
え、どこ……?
「ここや、ここ」
私の足下に、黒い毛皮の猫が居た。
赤い、燃えるような目をしてる、不思議な猫だ。
「あなた……もしかして火車さんですか?」
「おお、よーわかったな。せや! わいが火車や! よろしゅう、可愛いお嬢さん」
にこー、と火車さんが笑うと、前足を出してくる。
私は彼の足を掴んで、握手する。なんだ、とてもいい妖魔じゃあないか。
「へい、火車」
「おお、ザシキワラシ。久しぶりやなぁ」
二人は顔見知りらしい。
幸子ちゃんが火車さんを抱き上げて、喉のしたを撫でる。
そうだ、目当ての火車さんを見つけたんだ。はやく、彼女におしえないと!
「ひのわさん! 火車さん居ましたよ!」
「ほんとっ?」
ひのわさんがこちらに近づいてくる。
けれど……。
「どこに居るのよ?」
「え……? 幸子ちゃんが今、抱っこしてますよ」
ひのわさんの視線は、しかし、火車さんを捕らえていない。
「いないじゃあないの」
「いないって……そんな……」
すると火車さんがため息をつく。
「この子はわいを見えてへんのや」
「そんな……どうして……」
「自分の辛い過去から、目ぇそらしてるからやろうな」




