五十嵐の当主 3
自動車に乗り込む、私たち。
運転席には、真紅郎さん。
そして助手席には……。
「「「…………」」」
私たち三人、動けないで居た。そう、この自動車……四人乗りだ。
運転席に一人。助手席に一人。残り二人は……後部座席に座るように、なっている。
運転席の真紅郎さん以外、どうすわるか……。
「ひのわ。おまえ助手席に座れ。俺とレイが……」
ぎろり、とひのわ様がサトル様をにらみつけてきた。
サトル様が気圧されたのか、「わ、わかった……じゃあ、俺が助手席に座るから。おまえたち後ろに……」という。
だがまたひのわ様が、にらみつけてくる。どう……しろと?
「あの、ひのわ様は、どう座りたいのですか……?」
こういうときは、本人に要望を聞くのが一番早い。
ひのわ様は私を、射殺さんがばかりににらみつけてくる。な、なんなんの……?
「……僕は、悟の隣に座りたい」
とのこと。なんだ。
「じゃあ、どうぞ。私は助手席に座ります。サトル様と二人、後ろに座ってください」
「!? 良いのか……?」
「? はい。ひのわ様がそうしたいのでしたら」
私は別に、どこにすわりたいという要望はない。
あえて言うなら、私以外の人たちが、座りたい場所に座って欲しいくらいだ。
「…………良い奴」
「え?」
「……なんでもない。では、僕は【悟の隣】に座らせて貰うぞ」
「どうぞ」
後ろの席、ではなく、サトル様の隣、と強調したようないい方だった。
どうしてだろう?
別に深い意味はないかな。
「れ、レイ~……。俺の隣に座って欲しいんだが……」
「ひのわ様が後ろに座りたいと、先におっしゃったので、そちらを優先したいです」
「ふぐぅう……じゃ、じゃあ俺がレイの隣に座る!」
「運転席に座るってことです?」
「そうだ! 俺が車を運転する。こう見えて……俺は免許を持っているのだ」
自動車を運転するためには、国が発行する、運転免許証なるものが必要だ、と朱乃さんに聞いたことがある。そして……。
「サトル様。朱乃さんから、聞きましたよ? ペーパードライバー、なんですって?」
「ぐぬ……」
どうやら、免許を取ったはいいものの、一度も運転したことのない人たちのことを、ペーパードライバーとういらしい。
サトル様は今まで一度も車を運転したことないそうだ。
「そんな人に、ハンドルを握って欲しくないです。事故を起こして、皆さんを怪我させたらどうするのですか?」
「そ、そうだな……愛するレイを傷つけるわけにはいかんし……」
「でしょう? 大人しく、運転は慣れてる人に任せたほうがいいでしょう」
「そう、だな。そうしよう……レイの言うとおりにしよう」
これでよし。
事故ってひのわ様や真紅郎さんを傷つけるのは避けたいから。
「…………」
ひのわ様が、親の敵みたいな感じで、私をにらんでくる。
「……熱々なところを見せつけやがって」
「はい?」
「……なんでもない。少し見直したが、僕の見間違いだったようだ」
この御方、お声が小さいので、聞き取りにくい……。
「あの、何か言いたいことがありましたら、はっきり言っていただけますと。そのほうが、ひのわ様のご要望に応えられるかと思いますので」
「なら……!」
とても大きな声で、ひのわ様が言う。だが……口を閉ざしてしまった。
「……さっさと出発するぞ」
「そうですね。そうしましょう」
私たちは車に乗り込む。
「……これが正妻の余裕ってやつなの? むかつくっ」




