山の神 1
年明けて、4日ほどが経過した。
このところ、毎日のように、お客さんが来て、サトル様のもとに挨拶に来る。
そして、新年からずっと、お祝い&宴会ムードが続いた。
幸せな年末年始だったと思う。
そんな、年明けのある日の朝。
私たちのもとに、来客があった。
「れーいー!」
「りさと姫?」
極東王家がひとり、りさと姫が、やってきたのだ。
「れいー! 中々遊びに来ないから、こっちからきちゃったわ!」
「も、申し訳ないです……」
かつて、りさと姫の異能を、制御できるようにした。
それ以降、私は彼女から好かれるようになっているのである。
「やぁ、レイ。悟」
「く、九頭竜様!」
この国の王、九頭竜 白夜さまが、私たちの元へやってきたのだっ!?
「こ、こちらから新年の挨拶に向かわねばならないところを……申し訳ありません」
「気にしないでおくれ。王家も年末年始は忙しくしていたからね」
うちですら、忙しかったのだ。王家も千客万来で忙しかったのだろう。
「それにしても……ふむ。レイ」
「なんでしょう?」
「また一段と綺麗になったね」
にこっ、と白夜さまが笑顔でおっしゃる。
「白夜さま」
ぎゅーっ、とサトル様が私を抱きしめる。
「確かにれいたんは、最近より一層美しくなった。特に胸と尻に肉が付いたことで、最強無敵に……」
「さ、さとるんのばかっ! へんなこといわないでっ!」
た、確かに?
年末年始は、美味しいご飯が朝昼晩と出たため、ちょっと……お肉が付いてきた。
そこ、気にしていたのにっ。
「全然標準体型じゃあないか。むしろ、前は痩せすぎだ。このくらい肉があるほうが、抱いたとき心地よくてな」
「もう……バカ……。私、エッチな人は嫌いです」
「口では嫌いと言いつつ、俺のことほんとは好きなんだろう?」
「さとるんのことは好きですけど、意地悪な人は嫌いです」
「ごめんってれいたん~」
「謝ったので許します~♡」
「れいたーん♡」
……そんな私たちのやりとりを見て、白夜様がぽかんとしていた。
りさと姫も、ぽかーんと……。はっ! し、しまった……!
王様の前で、なんて姿を見せてしまったんだ。
「すみません……」
「あ、いや。その……あれだ。れ、れいたん? さ、さとるん……? いつの間に……?」
「あ、ついこないだから言うようになりました」
王様の前でさすがに、れいたん♡ さとるん♡ は舐めていると思われてしまうだろう。
気をつけないと。
……あれ?
「白夜様は未来を見通せるのに、私たちの呼び名が変化したことについては、知らなかったのですね」
白夜様の異能は、【ハクタク】。未来視の異能だ。
なら、私たちがこうなる未来も見えてても不思議じゃあないような……。
「未来は、確かに見える。だが一人一人の未来を見ている時間はないのだよ」
なるほど……。視る、ことはできるが、裏を返すと未来を視る必要がある。
そうなると、視る行為に時間がかかってしまう。
他にも重要な事項について、未来を視ないといけないのだ。個々人の未来を視てる暇はないのである。
「今日は君たちに、相談があってきたんだ」
「相談……?」
「ああ。依頼をしたくてね。信濃に住む、神霊を助けにいってほしいのだ」
信濃……?
「どこですか、信濃って?」
「東都からはるか西にいった先にある、山に囲まれた街のことだよ」
信濃の神霊を……助けて欲しい、か。
「わかりま……」
「れいたん」
私の口を、サトル様が唇で塞いできたっ!
「うむぅう!?」
な、なんでこんなときに……キスなんて……。ああ、だめだ……サトル様にキスされたら、体からチカラが抜けちゃう……。
思い、出しちゃう。この三日間のことを。
「れ、レイ……。あんた、三日間ずっと……」
かぁあ……とりさと姫が顔を真っ赤にする。
し、しまった。りさと姫の異能は、【覚】。心を読む異能だ。
……私が、年明けからずっと、毎晩サトル様と……その……肌を重ねてることがバレてしまったっ。
「お盛んで何よりじゃあないか。子供の性別は……」
「し、調べなくていいですっ」
一方、サトル様は真面目な顔で言う。
「レイ。正義感の強い君のことだ。信濃に行こうとしていただろう?」
「それは……もちろん」
困っている人がいるなら、チカラを持つ私が行くのは、当然かと。
「白面に狙われてることを、忘れたのかい?」
「……忘れたわけではないです」
呪禁存思。蘇生の術を使える私は、白面から狙われてるそうだ。
白面は現在、封印されている。彼らは復活の機会を虎視眈々と狙っているのだ。
信濃へ行くということは、東都を出るということ。
「東都……というか、一条家がレイにとって最も安全な場所です。そこを離れるのは、危険すぎます」
なるほど……。
「悟の言うとおりだ。私としても、レイを派遣するのは避けたい……。が、もうレイにしか頼めないくらい、状況は悪いのだ」
……一体、信濃で何が起きてるというのだろうか……?




