新年の挨拶 4
木綿さんと一緒に、広間へと戻ってきた。
「ああ……! レイ……!」
サトル様が手で自分の顔を覆う。
「……麗しすぎて、目が潰れてしまいそうだっ!」
木綿さんと朱乃さんに、着飾って貰った私を見て、サトル様が嬉しそうな悲鳴を上げる。
「お嬢様素敵!」「美……!」
「普段から綺麗なお嬢様が、とんでもなく美しく進化してる!」「元旦からこんな美しいお嬢様が見れるなんて! 縁起がいいわー!」
黒服の皆さん、私を褒めてくださる。サトル様にも褒めて貰えたし。それに……。
「ああ、レイさんっ!」
がばっ! と守美様が私を抱きしめてくる。
「可愛い可愛いもう可愛い!」
むぎゅぅううううううと、守美さまが私を抱きしめてくる。
「レイさんが可愛すぎます! もう犯罪! 過剰可愛罪で逮捕ですわ!」
「そ、そんな罪状が存在するのですか……」
「ええそりゃあもう! 罰として今夜はわたくしと一緒に……」
「母上、それくらいに」
ひょいっ、とサトル様が守美さまの首根っこをつまんで引っ張る。
嫌ではなかった。けど……
すすっ、と私はサトル様のお側に移動する。
「どうしたんだ、レイ?」
「…………いえ」
……私の知らないサトル様が、確かにいる。
女嫌いだった過去。それは……もうどうしようもできないこと。
……だから、もう過ぎたことにくよくよはしない。
きゅっ、とサトル様に抱きついて、ちゅっ……とキスをする。
「さとるん。可愛いって言ってくれて、ありがとう」
「れ、れいたん!? 人前でそういうの……嫌なんじゃ?」
「嫌じゃ無いですよ。恥ずかしいだけです」
恥ずかしいだけで、嫌ではないのだ。駄目とも言っていない。
「へえ~~~~~~。さとるんとれいたんね~?」
によによ、と木綿さんが笑っている。
「いつの間にそんなラブラブに~?」
「あ、いやこれはな……」
幼馴染みの前で、いちゃついて、気まずそうにしてるサトル様。
……この二人の過去についても、気になりはする。
……でも、いい。私は、もう後ろを振り向かない。
「さとるん、ラブラブするの嫌なんですか?」
「嫌なものかっ。ああ、れいたんれいたん」
むぎゅーっと、サトル様が私に抱きついて、スリスリと頬ずりする。
私は彼をぎゅーっと抱きしめる。
「ああ、れいたん。今日は憂鬱なんだ」
「どうしてですか?」
「お偉いさんがたが、新年の挨拶にくるのだよ、この後」
「まあ……そうなんですね」
そういうものなのか。そういえば、サトル様は九頭竜様のもとに、あとから行くと言っていたし。
極東では、そういう風習があるのか。なるほど。では……私がするべきは、一つだ。
「さとるん。ふぁいとですっ♡ 今日、嫌なことを頑張ったら……ぎゅーってしますのでっ」
「ほんとうかっ!」
「はいっ。そして、これから頑張れるように、目一杯、ぎゅーってしてあげますのでっ」
「れいたんっ!」
いつも、私はサトル様に、してもらってばかりだった。
でも……今年から、いや、これからは。
私も、サトル様に、何かを返せるように、頑張っていこうって。
木綿さんから、サトル様の過去を聞いて、改めて……そう思うのだった。




