新年の挨拶 2
木綿さんが、一条のお屋敷にやってきた。
……大量の、お年玉を携えて。
「どうしてこんなに……」
「新年のご挨拶だよ」
大広間にて。
木綿さんは私の隣に座り、ケラケラと笑っている。
「一条はうちのお得意様だからねー。お得意様への挨拶、大事」
「で、でも……だからってこの量の服を持ってくる必要はないのでは……?」
中身は全部、私が着るための服とのことだった。
「一条家の皆さんへの服がないの、申しわけなさすぎるんですけど……。それに、不平等ですっ」
「そんなことないって。皆喜んでるよ。ね?」
うんうんうん、とサトル様含めて、皆さんうなずいていらっしゃる。ええー……。
「レイを美しく着飾ることが、俺たちにとって何よりも喜ばしいことだからな」
「レイさんが綺麗な服を着てるだけで、目の保養になります」
サトル様、守美さまがそうおっしゃると、皆さんがうんうんうんうん、と強くうなずく。
「お嬢様の色んな服が見れるなんて幸せぇ~」「お嬢様は和服以外も似合うしな」「もっと色んなお嬢様の可愛い姿みてえ……!」
ほらね、と木綿さんがあっけらかんと言う。
「レイちゃんを可愛くすることで、皆幸せになる。一条家で一番喜ばれるプレゼントは、レイちゃんを幸せにすることだからね。需要には常に応える! 商人にとって必要なことだよ」
そ、そう……なんだ……。
「というか! 新年なんだから、もっと綺麗な、普段着ないような服を着ないと! 朱乃! いくよー!」
木綿さんが私の手をとって、ぐいぐいと引っ張る。
「え、え、ど、どこに……?」
「お着替えの時間でーす。あたしがお着替えさせて、朱乃がお化粧」
有無を言わさず、木綿さんが私を別室へと連れて行く。
「あの……今は皆さんと新年の宴の最中なので……あんまり長い時間中座するのは……」
「だいじょーぶ! あたしの異能をお忘れ?」
木綿さんが持ってきた布を片手に持ち、もう片方の手を、私の肩に載せる。
「【一反木綿】!」
一反木綿。木綿さんの体内妖魔だ。
触れた布を自在に操作する異能。
木綿さんの持ってきた、高級な反物がほどけて、私の体にまとわりつく。
あっという間に、私は新しい衣服に身を包んでいた。
「うん! いいね。やっぱレイちゃんは白が似合う!」
……新しい着物は、白く、そして雪の意匠が施されたものだった。
なんて……綺麗なんだろう。
「うん! 最高に似合ってる! 朱乃、どう?」
「はい、とってもおきれいですよ、レイお嬢様」
「だよねー! くぅ~! あーもー! かわいすぎー!」
がばっ、と木綿さんが私に抱きつく。
「普段のレイちゃんも、可愛いけど、おめかしするともう言葉にできないくらい可愛いわ! あー! 悟が結婚しなかったら、あたしがレイちゃんと結婚したいくらい。なーんてね」
「ゆ、木綿さん……冗談でも、そういうのは……」
「わかってるって、冗談冗談。旦那に不満はないし。この子もそろそろ生まれるしねー」
そう、木綿さんのお腹には、今、赤ちゃんがいるのだ。
「年明けには生まれる予定なんだ」
「楽しみですっ」
木綿さんには、今もうすっごくお世話になっている。極東での普段着とか、全部この人が送ってくれてるのだ。
だから、木綿さんの赤ちゃんが生まれたら、世話になっている彼女に、プレゼントを送りたいと思ってる。
「で、レイちゃんの赤ちゃんはいつ生まれるのかな~?」
ニマニマ笑いながら、木綿さんが私を見てくる。
「秋頃ですかね……」
「ほ……!?」
木綿さんが、目を大きくむく。
がしっ、と肩を掴んで揺すってきた。
「え、え!? ま、まさか……え、寝たの!? 悟と!?」
「は、はひ……」
木綿さんが朱乃さんを見やる。
朱乃さんが静かにうなずいた。
「まじっかー……。はぁー……あの悟が、ねえ……」
なんだか、感じ入ったように、彼女がうなずいてる。
「女嫌いの悟が、ついに……感慨深いわぁ~……」
サトル様が、女嫌い……?




