初日の出 3
屋根の上に乗ってる、私たち。
周囲が少しずつ、あかるくなってくる。そして……気づいた。
「あ……」
「雲が……」
そう……。今朝は、少し曇り空なのだ。
曇天というほどではない。
けれど、東の空は雲が覆っており、日の出を拝むことが……できない。
「残念ですね……」
「そうだな……」
初日の出、見たかった。けど曇りなら……仕方ない。
『のーぷろぶれむ』
そのとき、脳内に……聞き慣れた幸子ちゃんの声が響く。
シュンッ……と、幸子ちゃんが私の前に現れたのだ。
「幸子ちゃんっ!」
「ひさしぶりのとーじょ。さっちゃんファンのみな、よろこべ」
私は幸子ちゃんを抱き寄せて、むぎゅっとする。
「幸子ちゃん、どうしたの? 呪禁存思の反動で、でてこれなくなったんじゃ……?」
死者を蘇生させる秘術、呪禁存思。
それを使った代償として、私の体内妖魔さんたちの霊力が低下。
幸子ちゃんが、外に出れなくなっていた……はずだったのに。
「れいのおかげ」
「私?」
「いえす。れい、さとるから、精気しぼりとったから」
「精気?」
そんなの搾り取っただろうか……?
特にそういうことしてないような……。
「れい。おとなしいかおして、にくしょくじゅー」
「は、はあ……?」
一体どういうことなんだろう……?
「肉食獣……」「やはり……」
守美さまたちが、納得したようにうなずいてる。
サトル様は手で顔を覆っていた……。どういうこと……?
「ともあれ、れいは、いのうがまたつかえるよーになった」
「! それってつまり……」
「ザシキワラシ。饕餮、鵺。また、使える」
なるほど……!
幸子ちゃんの言いたいこと、わかってきた。
私は……理屈はわからないけど、また異能が使えるようになったらしい。
饕餮さんの異能。
万象を喰らう異能ならば、この曇り空も……って、いやいや。
「さすがにそれは……」
「できる。れい。さいだいの、陰陽を行ったから」
陰陽。陽の気と、陰の気を合わせること。
私は前に、サトル様にキスをしたことで、サトル様の霊力を上昇させたことがあった。
「最大の陰陽って?」
「おせっせ」
え……?
「確かに」
と守美さまがうなずく。
「男女の営みは、最大の陰陽行為です。レイさんの霊力出力が跳ね上がります。現状なら……もしやこの空の雲を、喰らうことができるやも」
さすがに、天候までを変えてしまうほどの異能は……無理では……?
と思う一方で、守美さまが嘘や、おべっかを言う人ではないことは、知ってる。
それに……幸子ちゃんができるって言ってるんだ。できる……かも。
「サトル様は……どう思います?」
自分で決められない、弱い私。でも……サトル様は微笑みながら、私の頭を撫でててくださる。
「レイに不可能はないよ」
……私は、できる。そう思えるようになった。
サトル様が、私を肯定してくださったからだ。
「やってみます」
「うむ。れい。とーてつ。真名……おぼえてるね?」
「もちろんです」
呪禁存思を使う際に、私は幸子ちゃんたち、体内妖魔さんたちの名前を教えて貰った。
真名……。それは、妖魔たちが持つ、真の名前。
それを呼ぶことで、今まで以上に、強い異能を使うことができる。
私は右手を前に出す。
「【タオ】さん! 雲を……喰って!」
瞬間……。
空を覆っていた、分厚い雲が……。
ぶわ……! と一瞬で、消滅したのである。
……そこには、何も無い青空が広がっていた。
「うぉお……ぱねええ……れい、しゅごーい……!」
「まさか本当に、空を覆う雲を、全て喰らってしまうなんて……」




