年の瀬 3
……その後、宴会は深夜まで続いた。
一条親子はぐっすり眠っており、一度も起きてこなかった。
私は黒服さんたちや、百目鬼兄姉と、一緒に食事やお酒を楽しんだ。
「ぐぅ……」「むにゃあ……」「もうのめないぃ~……」
皆さん、宴会場で酔い潰れていらっしゃった。
私は寝ている彼らに、布団を掛けていく。朱乃さん、真紅郎さんと一緒に。
「お二人はお酒強いんですね」
と、私は彼らに言う。
「まー、あたしの場合は、体内妖魔が酒呑童子ですからねー。ものすごい大酒飲みの妖魔だったっていいますし」
「私は血液を操作し、代謝を促進することで、アルコールを外に出しておりましたので」
なるほど……。
「そういう意味で、すごいですね、レイお嬢様は。異能抜きで、ここまでお酒に強いなんて」
皆さんが酔い潰れている中、確かに、私は一度も泥酔することはなかった。
ほろ酔いするくらいだろうか。
「どうしてですかね」
「まあ……そういう血筋って感じではないでしょうかね」
と朱乃さん。血筋……か。
私の……サイガの家の血が、影響してる……のかな。わからない。
父やお母様が、お酒を飲んでいる場面を、見たことがなかったから。
「…………」
前は、サイガの家のことを思うと、嫌な気分になった。辛い日々を思い出してしまうから。でも……。
今は、不思議と、気持ちが落ち込まない。
なんでだろう、とは思わない。一条の家の皆さんが、私のことを支えてくれてるからだ。
ごーん……。と、どこからか、鐘の音が聞こえてくる。
「これは?」
「除夜の鐘でございます」
「じょや……?」
「はい。大晦日の夜に、108回鐘を鳴らす、という行事でございます」
「へえ……変わった行事があるんですね」
「はい。この鐘を突くことで、煩悩を断ち、気持ちよく新年を迎えられると考えられております」
へえ……。
新年かぁ。そうか、もう、年があけるんだ。
……と言っても、ここに来てまだ一年も経っていないのだけど。11月くらいにきたので、まだ二ヶ月……。
この二ヶ月、本当に色んなことがあったなぁ……。
「…………」
西の大陸を離れ、極東の悪魔と呼ばれる人の元に嫁いできた。最初は、どうなるかなって思ったけど……。でも……私は、ここに来て本当に良かったと、心から思ってる。
「お嬢様」
すっ、と朱乃さんが、私に上着をかけてくれた。
「そろそろお部屋に戻られてはどうでしょうか。夜も更けてきたことですし」
「そう……ですね」
……本当は、サトル様と今夜、供に……するつもりだった。
なのに……もう、サトル様ってば、お酒をたくさん飲んで、さっさと眠ってしまうのだから。
……約束を、忘れちゃった……訳じゃあない、よね。
そう思いながら、私は朱乃さんと一緒に、自室へとやってきた。
ふすまを開けると、とても、部屋の中が温かかった。
「それでは、おやすみなさい、お嬢様」
「はい、おやすみなさい、朱乃さん」
朱乃さんはウインクすると、去っていった。……なんのウインクなんだろう?
ふすまを閉める。
いつも通り温かい。守美さまが言うには、結界術の応用だと言っていた。外気を遮断する空間支配術って言っていたっけ……。
……って。
「サトル様?」
布団が二つ敷かれており、サトル様が隣でぐーすかと眠っていた。
……なんでご自分のお部屋にいないのだろうか。
……まあ、別に嫌ではないけれども。
私は、周囲を見渡す。だれもいないのを、確認する。
ころん、とサトル様の隣に横になる。
「……さ、さ、さと……るん……」
小さく、私はサトル様の名前を呼んでみた。寝てるだろうけど。でも……呼んでみたくなったのだ。
「どうしたんだい、れいたん?」
「!? さ、さとるん……お、起きてたのですか?」
にこっ、とサトル様が笑顔で私を見やる。
「ああ。待っていたぞ」
「待ってたって……あっ」
サトル様が私をきゅっ、と抱きしめてきたのだ。
彼は、優しく、でも……強く、私を抱きしめる。
「約束したからな。今夜……おまえと供にって」




