年末の大騒動 3
……私を拒まない。
彼は、私を見てそういった。……その赤い瞳は、とても真剣だ。
まっすぐ私を見ている。嘘を言ってるようにも、茶化してるようにも、思えない。
……でも、思ってしまう。
「嘘なんじゃないの~?」
式レイの言葉に、私はドキッとさせられる。なぜって?
……私も、彼の言葉を疑ってしまったから。
私の心の声が、まるで聞こえてるかのように。
……そして、私の心の声を、代弁するかのように、式レイがサトル様に言ったのだ。
……どういうこと?
「嘘じゃあない。本当だ。俺はレイの全てを受け止める」
「ふんっ。どーせ……だれにでもそんなこと言ってるんでしょ?」
……やめて。
そんなこと、言わないで。私と同じ顔で、……そんな、酷いことを。
「言わない。俺は女ならだれでもいいわけじゃあない。レイだからだ。レイなら、何を言われてもいい。その全てを受け止める覚悟はある」
「ふぅん……じゃあ、証明して見せてよね!」
式レイが飛び出す。
一瞬でサトル様の間合いに入ると、右手に霊力を貯めて、掌底を放つ。
サトル様には霊亀の結界がある。
けれど、式レイには饕餮の、異能殺しがある。
式レイの一撃がもろにサトル様に入る。
「がはっ!」
「サトル様……!」
吹っ飛ぶサトル様に、私は駆け寄よろうとする。
「レイ、大丈夫だ」
むくり、とサトル様が立ち上がる。
「俺は、大丈夫だ」
スッ……とサトル様が両手を広げる。
「な、何をやってるんですか……?」
「いいから、おまえはそこで見てろ……れいたん」
そんな……真面目な場面で、そんな……あだ名を。
バカにしてるの……?
「バカにしてるんでしょあんた!」
たんっ! と式レイが再びツッコむ。
酒呑童子の異能を発動。両手足に炎を纏いながら、式レイはサトル様に襲いかかる。
「私のこと、いっつも腫れ物を触るみたいに接してきてさ!」
どがっ、ばきっ。
「それは、おまえが大事だから」
「大事だからなによ!」
式レイが、サトル様を攻撃する。……私は気づいた。
彼は異能を発動していない。
一方で、式レイもまた、饕餮を使っていない。
式レイが殴るのを、サトル様は……ただ受け止めていた。
「大事だから、手が出せなかったんだ」
「いつもぎゅーっとかちゅーとかしてるじゃん!」
「そこまではできる。けどそれ以上となると……怖くてな」
「怖い!? なによそれ!」
「お前に嫌われるんじゃあないかって」
……嫌う?
何言ってるの……?
「「私があなたを嫌うわけないでしょ!?」」
……私の声と、式レイの声が重なる。
……もしかして、と私は……遅まきながら気づいた。
もしかしてだけど……式レイ、あなた……まさか……。
「地獄から助けてくれた、あなたにとても感謝してる。あなたと、あなたの大事な家族のことを、私も大事に思ってる。そんな私が、あなたを嫌うわけないでしょ!? なんで伝わらないのよ!」
……式レイが、全部、言ってくれた。
私の……言いたいこと。私が……言えなかったこと。
「すまない、れいたん」
サトル様の目は、式レイの向こうに居る……私を見ていた。
「ほんとは、あだ名で呼んで欲しかったんだな」
「…………」
「ほんとはキス以上のこともしたいんだな?」
「…………」
「でも恥ずかしいから、言えなかったんだ。ごめんな、俺が、勝手にお前を遠ざけていた。ごめんな」
式レイが、いつの間にか殴るのを辞めていた。
そして……いつの間にか、消えていて……。
そして、いつの間にか、私は、彼の前にいた。
きゅっ、とサトル様が私を抱きしめてくれる。
「サトル様……お怪我を……」
体中アザだらけ。着ているおめしものは、炎で焼け焦げていた。
でも……サトル様は笑う。
「たいした傷じゃあないさ」
「…………ほんとに?」
「本当さ」
……サトル様が優しく抱きしめてくれる。異能を使わずとも、嘘をついていないのが、わかる。
「……ごめんなさい」
と、私は謝る。
「何故謝るんだ?」
「……式レイの言っていたこと、全部……本音だから」
私も、途中まで気づいていなかった。
式レイは……。
「あの子は、私の……もう一人の私なの。私の中にいる……もう一人。今まで、心の中で、押し殺してきた……感情」
彼女の言ってる言葉は、全部私の本音だった。
私の中にある、感情だったのだ。
私が押し殺してきたもの。もう一人の自分。
「あの子を……嫌いにならないで?」
「当たり前だろう? あれもまた、大好きなレイなのだから」
……私が隠し、表に出さなかった気持ち。醜い感情。嫉妬や、怒り。
それらを、式レイは代弁してくれた。
……そんな式レイのことも、サトル様は受け止めてくれた。
……どうしよう。どうしよう……すごく、嬉しい……。
「ねえ、どうしたらいいのでしょう? この気持ちを、あなたに伝えるためには」
「なんだ、そんなこともわからないのか? もう……レイは本当に奥ゆかしい子だな」
「……からかってないで、教えてください」
「いいよ。簡単さ。俺に口づけをして……むぐっ」
私はサトル様に飛びついて、そのままキスをする。
……そして、式レイがそうしたように、言う。
「ありがとう、愛してますよ……さ、さとるん」




