【Side】一条悟(一条家当主)
俺の名前は一条悟。
一条家の現当主であり、レイの夫となる男だ。
季節は冬、年末が近づいてきた。
今日は一条家が淺草の街の大掃除を行うことになった。
大掃除、というと、家の中の隅々まで掃除する行事をイメージするだろう。
しかし、ここでいう大掃除というのは、また、別の意味合いを持つ。
「【霊亀】!」
淺草の街、古い倉庫にて。
俺は霊亀の異能を使って、妖魔を退治する。
「【滅せよ!】」
ぼっ! と妖魔が一瞬で消し飛ぶ。
「いやぁ、ありがとうございます、ご当主さま」
この倉庫の持ち主である、商人が、俺に近づいてくる。
「妖魔を退治してくださり、誠に感謝申し上げます」
「気にするな。今年の穢れは、今年の内にはらっておきたいからな」
妖魔は、陰の気が高まる場所に集まる。
陰の気が最も高まるのは、夜だ。しかし、夜でなくとも、陰の気がたまりやすい場所というものもある。
倉庫の中など、暗くてジメジメした場所にも、妖魔が存在する。
普段、俺たちが行ってる夜廻りは、建物の外の妖魔をメインに討伐してる。
夜家の中に割って入るわけにはいかないからな。だから、外の妖魔だけを相手する。
家の中の妖魔は、はっきり言って雑魚ばかりなのだ。
が、ほっといたら成長し、ヤバい妖魔になってしまう。
だから、こうして年末には、退魔異能者(妖魔を倒す異能者)たちが家々を回り、家の中の雑魚妖魔を滅していくのである。
これを、俗に言う大掃除というのだ。
「お茶でものんでいってくださいませ、ご当主様」
商人がニコニコしながら提案してくる。
「ありがとう。だが、すまない。他の家を回らねばならぬのだ」
「そうですか……残念です……」
「また誘ってくれ。ではな」
俺は商人の家を後にする。
「一条様素敵よねぇ♡」「優しくて、イケメンで、仕事もできる」「はーあ……あたしも一条様と結婚したかったなぁ」
街行く人たち、特に若い女子たちが、俺を見てそうつぶやく。
自分で言うのもあれだが、俺はモテる。が、今、俺は他の女性達には興味を微塵も抱かない。
俺の愛する女性はただ一人。
レイ。俺の……最愛の人。
俺はレイ以外の女と付き合う気は全くない。
レイ以外の存在にアプローチされても、ノーサンキューである。
レイ。待っていてくれ。素早く任務をこなして、すぐにお前の元へ帰るからな……。
「悟~♡」
そんな風に中町を歩いていたら、後ろからだれかが、抱きついてきたのだ。
!? おかしい……霊亀の結界が俺の体を包んでいるはずだ。
いったい、だれが俺に触れられる……。
「いえーい♡ れいたんでーす♡ だぶるぴーす♡」
「……………………は?」
……目の前に、信じられない光景が広がっていた。
レイが。あの、大人しいレイが……。
「な、な、なぁ……!? なんだ……その、は、ハレンチなか、格好はっ!?」
レイは、普段厚着をし、あまり肌を露出したがらない。
そんな奥ゆかしいところもまた最高だ。
しかし目の前のレイは、真冬だというのに、肌を大胆に露出してる。
普段、着物を着ていて気づかないが、結構大きな胸。
最近食べるようになって、肉が付いてきた太もも。
それらを、大胆に露出しているのだ!?
ど、どどどど、どどぉなっているのだっ!
「れ、レイ! やめろ! そんな格好をしていたら、風邪を……そう! 風邪を引くぞ!」
ああ、レイが眩しすぎて、直視できない!
ただでさえ美しいレイが、そんな薄着をすることで、さら美に磨きが掛かっている! 自分でも何言ってるんだ状態だっ!
いやでも、太ももや胸元に目が行ってしまう。
これが、ただの女なら、別にそんなふうにはならない。
レイが、普段おしとやかなレイが、こんな大胆な格好をしてるから!
普段隠してる部分に、目が行ってしまうのだ!
「あーん♡ 悟やさしぃ~♡ すきすき~♡」
するり、と俺の懐に入り込むレイ。
ああ、いかん、いかん……!
レイの胸が……み、見えてしまう!
お、俺はどうしてしまったというのだ。まるで、思春期男子のごとく、女性の胸や太ももに目が行ってしまう!
だって仕方ないだろう!?
レイが、あの、大人しいレイが、こんな格好をしてるんだぞ!?
「悟の、えっち~♡ 胸ばっかりみてもー♡ 見たいんだったら、見たいですぅって言ってくれれば……ね?」
み、見せてくれるというのか!?
ばかっ! 俺は一条家当主だぞ!?
そんな見たいですなんて、バカなマネ、できるわけないし言えるわけがないっ!
「見たくないんですかぁ~……くすん。せっかく……レイは、サトル様のために、可愛いお洋服着たのに……寒いのを我慢して……くすん、すんすん」
レイがぁああああああ!
俺のためにぃいいいいい!
うぉおおおおおおおおおお!
「見たいです!」
はっきり言おう。めちゃくちゃみたい。
いや、まあ。レイとは何度かキスをしてる……が。
まだ、肌を重ねたことがないのだ。
俺も男だ。愛する女と、閨を供にしたいという気持ちはある。
そういう男としての欲を表に出したら、レイに……嫌われてしまうかもしれないと思ったのだ。
レイは気が弱いから。男の俺が、欲望丸出しにして、襲いかかったら……きっと、引いてしまう。そう思ったのだ。で、ずっと我慢してきたのである。
……でも。
今のレイは、こんな……薄着をして、俺に……女を見せつけてくる。
も、もしかして……俺が思っているように、レイもまた、俺と肌を重ねたい……そう思ってるのか!?
いや、いや、待て待て俺よ。
いくらなんでも豹変しすぎだろう?
あのおしとやかなレイが、こんな……痴女みたいな服装と言動を、するはずがない。
まさか……異能犯罪者?
だれがレイのふりをしてるのか……?
おのれ! 極刑に処す!
「悟ぅ~~。レイおなかすいたぁ~。あそこでお団子たべよー」
レイ(暫定偽物)が、お団子屋を指さす。
いや、いや。
「おまえを捕縛させてもらう。おまえは、レイじゃ……」
「くすん……悟。レイとお団子たべたくないの? 一緒に、あーん♡ したくないの?」
「したい!」
はっ……! しまった……つい欲望が口を突いてしまった。
いや、したい。したいのだ。レイと、その……恋人っぽいことを。
本当のことを言えば、俺は、もっとレイと、普通の恋人らしいことをしたいのだ。
一緒にデートしたいし、道ばたで手をつなぎたいし、キスなどもしたい。
そして、あーん……と食べさせ会うことも、してみたいのだ。
でも、レイは大人しい娘だから、そういうの苦手かなとおもって……中々提案できないで居たのである。
それが、ここに来て……レイからの提案。乗るしかない、この大波に。
「じゃ、一緒にお茶しましょ~♡」
「ああ」
……最初はレイの偽物かもしれんと思った。
が、こうも考えられた……。
これが、レイの本性なのかも……と。
レイもまた、俺と同じで、もっともっといちゃいちゃしたかったのかも……と。
いやいやいや。いかんぞ悟。
レイの偽物かもしれないのだ。
偽物かどうか調べるため、お団子屋で一緒にあーんしよう。
そう、これは探りを入れる行為にすぎない。決して、恋人とあーんしたいからでは、断じてない。断じて……。
「はい、悟♡ あーん」
「あーん♡」
レイからお団子を渡されて、あーんして、食べる。うん……うまい。普段のお団子の、何倍もうまいぞ!
レイも笑っている。ああ、いつものレイだ。……やっぱり、こっちがレイの本性なのかもしれない。
レイもまた、俺といちゃいちゃしたかったのかも……。
そう思った矢先、もう一人のレイが現れたのである。
ど、どうなってるのだ!?




